「小さな絶望の積み重ねが 人を大人にするのです」
七海建人
ピッ
ピッ……
おきのどくですが
ぼうけんのしょは
きえてしまいました。
「……………っ!?」
ある日曜日。
窓からは心地良い風が吹き
外にはどこまでも澄み渡った青空
遠くの方で子供達の遊ぶ声が聞こえます。
幼い頃から兄の影響でゲームばかりしていたボクは、三度の飯よりゲームが好きというほど没頭していました。
『お兄ちゃん見てみて!!』
『なんかすごいの見つけた!!』
「ほんまや!ケイシなにそれ!?」
「めっちゃ強いやん!」
そんな会話をしながら兄と代わりばんこでやるゲームは、ボクにとって何よりも楽しい時間でした。
その時が訪れるまでは…。
ブィーーーン…
ブィーーーーーーン…
掃除機をかけながら母が階段を上がってきました。
以前、兄とゲームをしている最中に、母が掃除機のノズルをゲーム機に当ててしまい、テレビの画面がピカソの絵画のように独創的な模様を映し出したことがあったので、ボクと兄は掃除機をかける母を警戒していました。
そんなボク達2人の心配を他所に、2階に着いた母は掃除機のコードを刺し直し、部屋の中を掃除し始めたのです。
ブィーーーン…
ブィーーーーーーン…
「お母さん絶対ゲームに当てんといてよ!」
『お母さんぜったい当てんといてよ!!』
兄とボクは、母に注意を促しながら掃除機が終わるのを固唾を飲んで静かに見守ります。
手に汗握る瞬間です。
ゲームのコントローラーを持ち微動だにしないボクと兄。
「さぁ、終わったで✨」
安堵の瞬間でした。
これでやっとゲームを再開出来る!!
意気揚々と続きを始める兄とボク。
「こんな天気良いのに外で遊んできたら?」
「ゲームばっかりしてたらあかんで。」
「はーーーい」
『はーーーーぃ!!』
母の言う言葉も右から左へ。
改めて冒険の旅に出たボク達は、迫り来る敵をバッタバッタと薙ぎ倒し、傷付きながらも成長する勇者の姿に興奮を禁じ得ません。
気が付けば夕方になっていました…。
冒険に疲れ、その旅路を記録に残そうとしていた時のこと…。
室内に干していた洗濯物を取り込む為に、母が再び2階へ上がってきました。
警戒など皆無。
何故なら、洗濯物はボク達の後方に干してあり、ボク達の前方にあるゲーム機に影響など微塵もないと思っていたからです。
「まだやってんのかぁ」
「もうそろそろ止めときよ」
「お母さん怒るで。」
「はぁぁぁぃ」
『もぅ終わるよ〜』
一日の冒険の終わりでした。
「あっ、そうそう!」
「こっちがケイシの服で、こっちがお兄ちゃんの…」
ガッッッ!!!!!
なんと取り入れた洗濯物の説明をしに母がボク達の前に来ようとして、ゲーム機の線に引っかかってしまったのです!!
ビーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピカソが映し出しされ、悲鳴にも似た音を発しているテレビ画面。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『ぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
『お母さんっっ!!!』
「ごめんごめん!」
「けどこんな時間までゲームやってるからやしょ!」
「もうご飯出来るから下りておいでよ!」
何事もなかったかのように去る母。
危なかった…。
ゲームの記録をするのがあと一歩遅ければ、悲劇は免れ得なかったであろう。
兄と顔を見合わせ、再度電源を入れ直すボク。
ピッ
ピッ……
おきのどくですが
ぼうけんのしょは
きえてしまいました。
『おかあさぁあぁぁぉぁぁぁぁんっっっ!!!!!』
大阪・京都・神戸・紀伊萬天堂セラピスト
【ケイシ】です。
悲劇は繰り返される…。
だけどその度にボク達は立ち上がり、新たな旅路を歩み出す。
破壊と再生。
この世の真理と呼べる事象にボク達は出会い、そして手に入れていたのです。
そう。
【あきらめないこころ】を。
その後、ゲームは一日2時間までと決められました。
ケイシの写メ日記
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【破壊と再生】ケイシ