ある日の深夜、突然友人から連絡が来た。たぶん一年以上会っていなかったし、連絡を取り合うこともほとんどなかった。何かと思ったら、「○○、女風やってる?」とストレートに聞いてきた。迷った挙句、「そうだね、やってるよ」と返すと、すぐに彼から電話がかかってきた。僕は風呂にまだ入っていなかったし、食事もとっていなかったからはっきり言って電話を受けたくなかった。が、これを無視したら面倒なことにつながる気がして電話をとった。友人は、「俺の嫁さんが女風を利用しててよお、HPを見たんだよ」と言った。へー、と頷いて話を聞いていた。
「嫁さんがちょっと前から様子がおかしくて、平日の昼間から化粧して出掛けてたりしてたんだよね。前はそんなことなかったのに。服の好みも変わったりしてて。なんかさ、うちらも付き合って結構長いから、まあ浮気の一つもしてるのかなと思ってたんだよね。いやだけど、それも仕方ないかなとは思ってた。おれもしてるし。今はしてないよ。してたことあるし、ね。でさ、たまたまおととい彼女のケータイ見たんだよ。見たというとか、今度行きたいとか言ってたテーマパークのサイトを見せられてたんだけど、そんときに通知がきて。それが明らかにおかしかったから追求して、二、三日ぐらい追求してたら、まあ、女風ってのを利用したと。それが浮気かどうかなんてどうでもよかったんだよね。女風ってなんだそれってとこから始まってさ、まあ女が風俗行く時代になった、ただそれだけんだろうけど、俺も怒っていいのかよくわからなくてさ。とりあえずサイトを見せろ、ということで。それでサイトのHPを見てたらさ、なんか○○っぽいのがいて、これはたぶんそうだろうなって思ったんだよ」
「すごいな、それだけでか」
「確信はなかったんだけどね。でも似てるなあと思ったし、おまえならやりそうだなと思ったんだよ。やっていてもおかしくない気がした。でも俺がいうのもなんだけど、たぶんお前はそういう世界は向いてないよ。たぶんね。ちょっと待って、今ね、嫁が隣の部屋で寝てんだけど、もしかして寝てないかも。寝てるふりして、こっちの会話聞いてる気がするんだよな。いいんだけどさ別に。俺はさ、お前が元気にしてくれて嬉しいよ。電話できてよかったよって思ってるよ。どうなの、こっちには帰ってこないのかよ。帰ってきたら連絡してよ。迎えに行くからさ。いやそうじゃなくてさ、彼女のことなんだけど、それだって別にどうでもいいんだよね。彼女が風俗通ってるってもし俺の親とかが知ったら、たぶんいやな顔するんだろうけど、時代は変わっただけ。どうでもいいんだよね。俺はさ」
たぶん酒に酔っていたんだろう。もしかしたら誰に電話をかけているかさえわかっていないかもしれないな、なんてことを思いながら話を聞き頷いていた。友人は自分の妻が他の男性に抱かれていることを想像し、鈍器で殴られたかのような衝撃を受けたらしい。「自分でもびっくりするぐらいの衝撃だった」と友人は言った。声は小さくなったり大きくなったりした。ときどき何かを飲む音と、グラスをテーブルに置く男が聞こえた。友人が深夜のキッチンで酔っ払っている姿が想像できた。三十分ほど会話をしたあと、彼は俺もなれるかな、と聞いた。「俺もそっちの世界に行けるかなとか考えたんだよ。どうかな。やれるならやりたいな」
「無理だろうな」
「やっぱり、俺もお前と似てガツガツしてないからな」
僕は黙っていた。それからしばらくして電話を切った。ゆったり風呂につかりながら、待ち合わせ場所にいる彼の妻を想像した。決して悪くない想像だった。むしろ、それはなかなか快適な想像だった。
ある日の深夜、突然友人から連絡が来た。たぶん一年以上会っていなかったし、連絡を取り合うこともほとんどなかった。何かと思ったら、「○○、女風やってる?」とストレートに聞いてきた。迷った挙句、「そうだね、やってるよ」と返すと、すぐに彼から電話がかかってきた。僕は風呂にまだ入っていなかったし、食事もとっていなかったからはっきり言って電話を受けたくなかった。が、これを無視したら面倒なことにつながる気がして電話をとった。友人は、「俺の嫁さんが女風を利用しててよお、HPを見たんだよ」と言った。へー、と頷いて話を聞いていた。
「嫁さんがちょっと前から様子がおかしくて、平日の昼間から化粧して出掛けてたりしてたんだよね。前はそんなことなかったのに。服の好みも変わったりしてて。なんかさ、うちらも付き合って結構長いから、まあ浮気の一つもしてるのかなと思ってたんだよね。いやだけど、それも仕方ないかなとは思ってた。おれもしてるし。今はしてないよ。してたことあるし、ね。でさ、たまたまおととい彼女のケータイ見たんだよ。見たというとか、今度行きたいとか言ってたテーマパークのサイトを見せられてたんだけど、そんときに通知がきて。それが明らかにおかしかったから追求して、二、三日ぐらい追求してたら、まあ、女風ってのを利用したと。それが浮気かどうかなんてどうでもよかったんだよね。女風ってなんだそれってとこから始まってさ、まあ女が風俗行く時代になった、ただそれだけんだろうけど、俺も怒っていいのかよくわからなくてさ。とりあえずサイトを見せろ、ということで。それでサイトのHPを見てたらさ、なんか○○っぽいのがいて、これはたぶんそうだろうなって思ったんだよ」
「すごいな、それだけでか」
「確信はなかったんだけどね。でも似てるなあと思ったし、おまえならやりそうだなと思ったんだよ。やっていてもおかしくない気がした。でも俺がいうのもなんだけど、たぶんお前はそういう世界は向いてないよ。たぶんね。ちょっと待って、今ね、嫁が隣の部屋で寝てんだけど、もしかして寝てないかも。寝てるふりして、こっちの会話聞いてる気がするんだよな。いいんだけどさ別に。俺はさ、お前が元気にしてくれて嬉しいよ。電話できてよかったよって思ってるよ。どうなの、こっちには帰ってこないのかよ。帰ってきたら連絡してよ。迎えに行くからさ。いやそうじゃなくてさ、彼女のことなんだけど、それだって別にどうでもいいんだよね。彼女が風俗通ってるってもし俺の親とかが知ったら、たぶんいやな顔するんだろうけど、時代は変わっただけ。どうでもいいんだよね。俺はさ」
たぶん酒に酔っていたんだろう。もしかしたら誰に電話をかけているかさえわかっていないかもしれないな、なんてことを思いながら話を聞き頷いていた。友人は自分の妻が他の男性に抱かれていることを想像し、鈍器で殴られたかのような衝撃を受けたらしい。「自分でもびっくりするぐらいの衝撃だった」と友人は言った。声は小さくなったり大きくなったりした。ときどき何かを飲む音と、グラスをテーブルに置く男が聞こえた。友人が深夜のキッチンで酔っ払っている姿が想像できた。三十分ほど会話をしたあと、彼は俺もなれるかな、と聞いた。「俺もそっちの世界に行けるかなとか考えたんだよ。どうかな。やれるならやりたいな」
「無理だろうな」
「やっぱり、俺もお前と似てガツガツしてないからな」
僕は黙っていた。それからしばらくして電話を切った。ゆったり風呂につかりながら、待ち合わせ場所にいる彼の妻を想像した。決して悪くない想像だった。むしろ、それはなかなか快適な想像だった。