四
性癖というものはどうしようもない。持って生まれた病のようなものであると思う。相手の性癖にそぐわないからと言って、機械の部品のように安易に取り替えられるものではない。
そして性癖というものはいつはっきりと自認すると決まっているものでもない。色々と経験を経ていくうちに後から気付くことも多い。
もうどれくらいこうしているだろう。バーテンダーは相変わらず容赦なく私の口でペニスに刺激を与えている。バーテンダーのカウパーと私の唾液で彼のペニスは光っている。涎も垂れる。ぐちゃぐちゃと音も鳴る。
「いいね。気持ちよくなってきた」
私の性経験では優しく抱かれる事を是としていた。ミルクのような甘くうっとりとするムードに身を包み、優しい声と愛撫が全身を駆け巡る、そんな行為を。
しかし今夜はまるでオナホールのように扱われている。物のように扱われているが、これも私の性癖なのだろうか、私の中心がとめどなく濡れていく。
「あぁ…いいね」
バーテンダーはうっとりとした声を出した。
私もいつしか辛抱ならなくなっていた。充分に潤った私の中心はまるでそこだけが違う生き物のように蠢いてしまう。
私が懸命にバーテンダーのペニスを愛撫していると、気づいたように言った。
「腰、動いてるよ」
「んぅ…」
バーテンダーはまた私の尻に掌を振るった。ぱんという乾いた音と痛みに釣られて身体がぴくりと跳ねる。
「自分で触ってごらんよ。いつも自分でしてるみたいにさ」
その言葉に日頃の私の性生活を詳らかにされたようで、そこはかとない羞恥心を覚えた。堪らず首を横に振った。できるわけもない。
「なんでよ」
バーテンダーはそう言って、相変わらず健気にもペニスを咥えている私の手をとってもう一人の物欲しそうな私へとあてがった。右手にぬるついた感触がする。
もう少し…もう少しだけ…上に…。
そんな思考も読まれていたのか、バーテンダーは私の右手の中指を私のクリトリスへと押し当てる。そしてそのまま徐に円を描くように撫でていく。
まだホテルに入ってからというもののフェラチオしかしていない。しかしながらいきなり核心を責められて絶頂を迎えてしまうほどに私は焦らされていた。
バーカウンターの向こうで酒を作るバーテンダーの指。カクテルの味を見るとき、自らの手の甲に口付けをする仕草。煙草の煙に目を細める表情。最早全てが愛撫に等しかった。
康成の写メ日記
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「もう引き返せない」四康成