私たちって今、お互いの誕生日を祝い合うような感じじゃないけど、それが何年も続けてきたバースデーカードを書かない理由にはならない気がして、手紙を書いてます。きっと渡さないけど。
誕生日おめでとう!
いつもこの後になんて書いていたっけ?
渡さないんだから、思うがままに書いてみようかな。
私は今とっても幸せだと思う、多分。もう少しで看護師の試験があるから、今は忙しいけどね。一人での生活にも慣れてきたし。あなたも慣れましたか?お互い大学に受かったら、お家にお泊まりしようねなんて言ってたけど、なかなかそれも叶いそうにないね。
実は私、少し前に彼氏ができたの。少しって言ってももう半年になるんだけど。とても素敵な人なの。きっとあなたの方がずっとかわいいから、ずっとずっとかっこいい人と付き合っているのかも知れないけど、私にとってかっこいいんだからいいでしょ?
こんなことあなたに渡すとなったら絶対に書いてないし、話してもいないのに。まあ、書いてしまったものはしょうがないよね。今日は書き直しはしない。
それで最近、初めて彼を家に泊めたの。彼の家には何回も言っているんだけど、どうしても私の家に入れるのにずっと抵抗があったんだけど、その時は泊めてみたい気分だったの。家の掃除が上手く出来たっていうのもあるし、ケーキがいつもより上手く焼けたからかもしれない。そういう気分だったとしか、今はわからない。
その日は全部上手くいったの。私が不器用なのはあなたが一番わかっているとは思うけど、不器用な毎日を過ごしていると唐突に器用に出来てしまう時があったりするの。恥ずかしいから、なかなか書く気にはならないけど。
私たちってどうして仲良くなったんだっけ?あなたの誕生日が近ずくに連れてそんなことをよく考えるようになりました。趣味も好みも合わないし、本当に何でだろうね。考えれば考えるほど、私があなたを好きになる理由は思いついても、あなたが私と一緒にいてくれた訳はわかりません。
高校三年生の時にずっと一緒に勉強してたじゃない?あの時間がとっても好きだったなって思うの。私はパパが医者だからずっとお医者さんになりたいと思っていたの。でも私の頭じゃそれは難しいことはわかっていたしさ、なかなか言えなかったんだよね。あなたがこっそり私に医学部を受けようと思うって教えてくれた時から、私たちってずっと近くになった気がする。お互いの家のことを話すようになったのもあれからだったよね。不思議なことだけど、あれだけずっと一緒にいたのに最後の一年間であなたのことを知ったような気がしたの。
あなたが浪人するって話してくれた時、私すごく羨ましかった。あなたってとっても美人だし、頭もいいから医学部ではなくてもそれなりのところには受かっていたのに、それよりもお医者さんになりたいんだって気持ちがカッコよくて。だってずっと大変なことはわかっているのにね。私もね、それで浪人したいってパパとママに話してみたんだけど、大反対されて。あの時の私の電話に出てくれて本当にありがとう。それでも、そういう訳ができたおかげで気軽に諦めることが出来たんだと思う。
私ね、あなたが浪人してダメだった時、本当に私のことが嫌いになったの。嫌いになれなかったから、あなたとの距離ができたのかも知れないけどね。頑張って受かって欲しいって気持ちの裏側にある私の気持ちが、考えないようにしてもずっと浮かんでくるの。あなたが大学生になって、たまに会った帰りの電車でね、もしあなたが受かっていたら。そんなことを考えてしまうの。
私は自分が、ちょっとお化粧が上手くなって少しナンパされるだけで自己肯定できてしまうような女なんだなと思ううと、あなたが眩しくて堪らないの。
それでもね、あなたとお話をしたカフェで、私が注文したケーキと同じものをあなたが選んだ時、同じ飲み物を選んだ時に私は嬉しくて堪らなかったの。
「私も一緒のがいいな」って憧れのあなたが言ってくれるだけで、あなたと友達でよかったなって思うの。
本当、何を書いているんだか。きっと勉強を詰め込みすぎて疲れているの。
でもあなたにもし好きな人がいるなら、私に話して欲しいななんて思う。普段はしない話も一日だけ、私もあなたになら話せる気がするの。あなたもそう思ってくれる日が、一日だけあるといいな。
ダブルデートは似合わないからしないけど、あなたとまた会える日を楽しみにしてます。私の一番の友達の席は最近ずっと空席だから。
あなたも試験が忙しいと思うけど、頑張ろうね。今度は本当の頑張ろうねだから。
私は手が疲れたのでボールペンを置いた。書いた手紙は読み返さずに、丁寧に折りたたんで封緘して引き出しの奥にしまった。
今日はよく眠れそう。
カズの写メ日記
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『バースデイ・カード』カズ