ある日、いつも通りトイレで用を足しリビングに戻るとキッチンのシンクからコポコポ聞き慣れない音が聞こえた。
その音に若干の違和感を感じつつも膀胱が破裂寸前だったおれはあまりのスッキリ爽快感にその違和感をスルー。
中断していたゲームをいそいそと再開した。
人生における最優先事項であるFF7のリメイクを買ったばかりだったのも不運の一つだったのかもしれない。
その後、あんな悲惨なことが待ち受けているとは誰が予想しただろうか。
しばらくして、またトイレに行くと先程流したはずのトイレがなぜか水が黄色い。
あれ?さっき流し忘れた?
おれってばゲームに夢中なんだから。テヘペロ。
リビングに戻るとまたしてもキッチンのシンクからコポコポと聞き慣れない音が、しかも先ほどより確実に大きな音になって聞こえて来た。
トイレの水が黄色い
シンクからの音も大きい
先程よりも違和感は確実に大きくなっていたはずだ。
それにもかかわらず!!
大きな排出をしたおれは先程と同等レベルのスッキリ爽快感にその違和感すらもスルー。
そしていそいそとゲーム再開する。
今思えばここで何かしらの手を打っていれば…
後悔先に立たずとはまさにこのことか。
また数時間後トイレに行くと、流したはずなの水中にはなぜかちっちゃいう◯ちがいた。
黄色い水、シンクの音、ちっちゃいう◯ち…
ここでようやっと事の重大さに気がつき、全てが繋がった。
てか、これヤバくね?
詰まってるよね?
え、待ってキッチンも影響してんの?
とりあえずちっちゃいのいるし流すべ。
Flashボタンを押した次の瞬間、水位がものすごい勢いで上がってくるではないか。
人って本当に焦ると行動にエラー起こすよね。
目ん玉をひん剥きながら「うぉーーー!?」とかいって右往左往してんの。
それでもトイレの足元マットを引き抜いた咄嗟の行動は褒めてやってもいい判断力だったと思う。
水位が上がるのを、
「あ〜!あ”〜!!キァー(裏声)!!」
とか言いながらただただ見守ることしかできないこの無力感。
と、叫びが通じたのか水位は表面張力の2歩手前くらいの位置でストップした。
思わず腰が抜けてヘナヘナとその場に座り込む。
便器になみなみの水。
さっきまでちっちゃいう◯ちだったものが水流でホロホロに分解され、それはまるでおれを煽るかの如くユラユラと水中を漂っていた。
どーすんのこれ。。。。
時間は深夜24時を回ろうとしていた。
当時はコロナの第一波の渦中にあり、色々な店が軒並み時短営業をし始めたころだった。
ヤバい、急いでドンキに行って道具を買わないと。
おれの足なら走れば15分…ギリギリ行けるか!?
慌てて外に出るとおれをあざ笑うかの如く、リズミカルに雨がコンクリートを打ちつけていた。
雨か!!今か!!今なのか!?
大通りまで走りタクシーを探す。
なかなか来ない。
これは走った方が早いか?と思ったところでようやくタクシーに乗り込む。
信号待ちがもどかしい。
運「お支払いh…」
伊「Suicaで!!」
運「領収sh…」
伊「いりません大丈夫ですドア開けてください!!」
ごめんな運ちゃん、おれ余裕なくなるとせっかちMAXマンになるんだ。
店内には蛍の光と帰れコールが鳴り響く。
小走りに掃除用具エリアへ向かう。
ラバーカップ(トイレをずっこんずっこんするやつ)を発見。
待ってサイズやら何やら色々種類あるよどれ!?
ポンプ式?強そうじゃん?
いや、なんで一番安いじゃん?
心配じゃん?
高いけど普通の買うじゃん!!
ごめんな店員さん、ギリギリに駆け込んだおれが悪いけどそんな塩対応しなくてもいいじゃん。
店を出ると、雨はまだしたたかに降り続けていた。
往復のタクシーとラバーカップ代でそこそこの出費…
ぅぅむ…背に腹はかえられぬか。
ラバーカップを取り出しいざトイレへ。
するとどうしたことか、さっきまでなみなみと注がれ崩壊寸前だったのに水がどこにも見当たらない。
少しの量も溜まっていないのだ。
あるのは分解されたヤツらだけ。
…え(゚∀゚)?
様子を見ていると定期的に、
………ッコ!!…………ッコ!!………ッコ!!
と空気が吸われる様な音が聞こえる。
これは大丈夫…ではないよな?
何が起きている?
とりあえず水を流してみるか?
溢れないことはさっき実証済みだし?
と、恐る恐る水を流すとやはりすんなり流れず、ものすごい勢いで水位が上昇して再度なみなみと便器に水が補充された。
よし、やるか!!
ラバーカップを手に腕まくりをする。
本当の戦いが静かに幕を開けた。
とりあえずラバーカップは小学校のころに散々使いこなしている。
よーし、やるぞー!!
パズーよろしくやる気を出す。
まずは引く方に力を入れて
ずっこんずっこんする
流れず
根気強く
ずっこんずっこんする
流れず
今度は押す方に力を入れて
ずっこんずっこんする
なぜかキッチンのシンクの方からコポコポ音が鳴る
とりあえず
ずっこんずっこんし続ける
押す方に力を入れると水流の関係で水飛沫が上がるわけで。
返り血ならぬ返りう◯ち水(汚水、う◯ち)を盛大に浴びる。
このあたりから楽しくなってくる。
子供が水溜りにダイブする時ってこんな感じなのかなぁと無邪気な考えが頭をよぎる。
いかん、疲れて来てる。
う◯ち水を浴びるのもほどほどにしないとな。
ところでさっきから気になっていたキッチンのシンクはどうなってるよ?
シンクを見に行くと、特に変わった様子はなかった。
試しにシンクに水を流してみるとトイレと同様に水が流れていかなかった。
あー、あんまり考えたくなかったけどやっぱりキッチンもトイレに繋がってるよねー。
食器使ったりするところだしやだよねー。
でもここまできたらやるよねー。
とりあえずキッチンのシンクを
ずっこんずっこんする
トイレの水位少し下がるも特に効果なし。
まぁトイレずっこんやった後でシンクやるのも気が引けるけど後で掃除するから堪忍な。
てか、返りう◯ち水を浴びているおかげで身体も冷えたし、汚れたし、今日は諦めて風呂入るべ。
と、簡単に片付けをして風呂の湯を張り入浴の準備を進めた。
「お風呂が沸きました」
“お人形の夢と目覚め”のメロディと共にお知らせされる。
なんかもー疲れて服を脱ぐのもめんどくさいなとか思いながら思いながらう◯ち水で重くなった服を脱ぐ。
身体も冷えたし早く浴槽にダイブだ。
裸になり風呂場の扉を開ける。
強烈なう◯ち臭が鼻を突く。
まさかッ!?
いやでもトイレとキッチンが影響あるなら風呂場も当然…そう、なのか!?
そう、だよな…だって臭いもんそうだよ。
床と同じ柄をした排水口のフタに恐る恐る手を伸ばす。
隙間に指を滑り込ませフタを掴むと何故か水の中に指を入れたような感覚に襲われた。
OMGなのかこれは。
排水のフタ開けるとそこには茶色く濁った水が並々とあった。
ガッシャーン!!と、心が破れる音がした。
あ〜おれこの水にしっかり指突っ込んでたわけねホントやだどーすんのこれシャワーも浴びれないじゃん裸になってこんな夜中で外は雨だし寒いし中は臭いし逃げ場ないじゃんコロナで店もやってないしも〜△@?ァ×t)$$£”hァア゛〜!!!!
壊れる。
春の終わり、26時に裸で壊れる男
ひとしきり絶望し切った後、丁寧に手を洗い、新しい服を着る。
24時間対応の水のトラブルに電話するがコロナの影響でなかなかつながらない。
3件電話したがどこも時間短縮のため閉店。
4件目でようやく応答があり詳細を説明すると、もしかするとすごく費用がかかり4〜5万かかるかもしれないとのこと。
翌日マンションの設備管理者に連絡した方がお金がかからないかもしれないと言われた。
あらやだ良心的。
とりあえず管理会社にメールで連絡してこの家の処理は後日やってもらうとして、今日はどうすっかなと。
とりあえずこんな時間でも起きてそうな友人に事の顛末を連絡すると快く自宅へ招いてくれた。
持つべきものは友だ。
友人の家にタイムズレンタカーで移動し、暖かくて臭くない風呂と布団を提供してもらった。
翌日、管理会社から設備担当者が色々機材を持ってやって来た。
ちょっと確認しますね。
わぁ、お風呂場すごいですねー。
早速作業に入りますねー。
待つこと5分。
直りましたよ!
え、早くね!?
曰く、ポンプ式のラバーカップっで一撃で詰まり解消したとのこと。
えー、ドンキで一番安く売ってたから怪しくて買わなかったのに…
こうしてう◯ち大戦争は幕を下ろしたのでった。
後日談。
半年後くらいにまたトイレが詰まりポンプ式のラバーカップを買いに行き、意気揚々と処理にかかるもサイズが合わずに使えないという事故が起きた。
なんたることか。
しかし、辛い経験を経て知識をつけていたおれは、もうあの日の裸で途方に暮れているおれとは違った。
バケツに40〜50℃のお湯を汲み、それを勢いよく便器に流し込む。
溢れそうになっても焦らない。
時間が経つと少しずつ量が減っていくので通常水位になるのを待つ。
これを3〜4回ほど繰り返し、30分〜1時間程度待つ。
詰まりの原因である便やらペーパーを柔らかくする寸法だ。
その後、“サイズの合った”ラバーカップをゆっくり押し付けて、水が跳ねない程度に勢いよく引き抜く。
これを数回繰り返す。
ほらね、元通り。
もう、トイレの詰まりに怯えるおれではなくなった。
これを読んで自身でトイレの詰まりを解消させようと思った方にワンポイントアドバイス。
ずっこんずっこんする時は、大きなビニール袋をハサミで切り開き便座に被せると反りう◯ち水を浴びずにすむよ。
有馬 伊吹の写メ日記
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