【知識と経験の一致】- 柚香(santuario)東京/性感マッサージ

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柚香の写メ日記

  • 知識と経験の一致
    柚香
    知識と経験の一致



    とある秋晴れが心地よい日の昼下がり、僕と先生は学校近くの喫茶店へ珈琲を飲みに行った。

    そこは僕らのお気に入りの老舗の喫茶店で、先生が僕と同じようにこの大学の学生の頃から同様に賑わっていたという。窓側のテラス席へ腰を下ろすと同時に機械的な仕方でエスプレッソを二つ注文すると道中にしていた議論を続ける。

    僕「先生はさっき、『本ばかり読んでいてはだめだ。そんなものは本質では決してない、君には圧倒的に経験が足りない』と仰いました。確かに経験は大事です。ただ僕にはそれがどうにも本質には見えないのです。なぜなら僕らの知の対象としているのは哲学。感性で捉えたものより理性で認識した者の方が優位に立つとは当たり前じゃありませんか?」

    先生「君は大きな勘違いをしているね。私は知識と経験の優位性を語っているのでは決してない。君はよくものを知っている。それは認めよう。ただ君はそれを『知っている』だけなんだ。」

    僕「『知る』だけじゃどうしてだめなんですか。僕は小さい頃から耳が痛くなるほど本を読めと教わって来ました。そしてその教訓は今でも僕の根本に存在し、疑い得ません。なぜなら故人が残し、現在まで受け継がれて来た書物以上に高尚で有効な『もの』はないじゃないですか。」

    先生「君は私の講義のどこをどう解釈したらそう言う考えになるのかね。君には私が知識と経験、どちらが大切かなどというつまらぬ議論をするような人間に見えるのか?」

    僕「それはつまらぬ議論ではなく、今までたくさんの哲学者が語って来たより普遍的な論題じゃないんですか。」

    先生「どうだろうね。ただね、私はそのどちらかに『本質』を見出そうとだなんておこがましくて絶対にできないね。なぜならその二つは切り離せないものであるからだ。わかるかい?」

    僕「すみません。意味がわかりません。」

    先生「君の一番の取り柄はそういうことを平気で言うところだよ。」

    僕「それ、褒めてます?」

    先生「ええ、とても。」

    僕「知識と経験は切り離せないというのはどういうことですか?」

    先生「そのままだよ。平たくいうとどちらも同じぐらい大切ということさ。
    例えば君は『メアリーの部屋』(注1)という思考実験を知っているかい?」

    僕「はい。もちろん。『色』の無い部屋で『色』について、あらゆる方面から学習をし、『色』のスペシャリストになったメアリーがいざ、その部屋から出て、『色』について知った時、メアリーは何か知識以外で得るものはあるのか、という問題ですよね。」

    先生「ああ、そうだ。とても有名な話だがこれはある意味画期的だった。なぜなら長い間哲学の歴史の中では知識が経験に優位性を持っていると考えられていたためだ。
    しかし、このメアリーは知識として『色』を知っているがそれはただ知っているだけ、経験したことがないためにそれをどのようなものかは知らない。つまり今の君と同じ状況さ。」

    僕「んー、なるほど。なんとなくわかりました。」

    先生「よろしい。知識だけがあれど、それを経験していないとそれは単なる仮説に過ぎない。君が時間の流れが一定だと信じていることと一緒だ。(注2)」

    僕「じゃあ逆に経験に知識が伴っていない場合はどのような問題があるのですか?」

    先生「そうだな。ところで君は伊豆へ行ったことはあるかね。」

    僕「え?あ、はい。何度か。」

    先生「そうか。では君は、伊豆に行く前、どのような準備をした?」

    僕「準備?いや、それは一般的な旅行前の用意と同じでまず、目的地への生き方や周辺の観光地などを調べて、友達と打ち合わせをし、荷物をまとめる、みたいな感じですかね。」

    先生「ああ、そうか。君は川端康成の『伊豆踊り子』を読んだことがあるか?」

    僕「いいえ、一度も。」

    先生「なるほどな。まぁそれでも良いか。
    伊豆はいいところだもんな。私も何度か妻と訪れたことがある。」

    僕「さっきからなんなんですか?先生の質問の意図がよくわかりません。」

    先生「まぁそう焦るな。君は『伊豆踊り子』を読んだことがないと言ったな。確かにそれでも伊豆は十分楽しめる。景色の良い温泉に素晴らしい海鮮料理だってあるしな。ただな、君は川端康成がどのように伊豆を捉えていたのか知る必要がある。なぜならそれを読むのと読まぬので同じ景色への感じ方が完全に変わるからだ。」

    僕「なるほど。ただそれは少し恣意的ではありませんか。」

    先生「ああ、まぁそうだな。でもな、ここで何が言いたいかだが、経験に知識が伴わなければそれはただの中身の伴わない薄っぺらい経験になってしまう。それではいけない。なぜなら君は幸福を望んでいるのだろう?
    さっきも言ったが、私は経験と知識、どちらが重要などと話しているわけではない。どちらも重要なのだ。最も大切なことはそれぞれ独立した二つを一致させることだ。
    君は幸福を望んでいる。では、その幸福について考えなくてはならない。望むものが何か考えなければそれは掴めないからだ。そして、それを掴まなければならない。掴まなければ本当に幸福になったとは言えないからだ。これは全てのことに言えよう。君はセラピストとして活動しているが、女性というものがどのような存在か知っているか?そして、多くの女性と実際に正面から接して来たか?この二つの要素が揃わぬ限り良いセラピストとは到底言えまい。」

    僕「あれ、僕先生に僕のお仕事の話しましたっけ?
    ま、いいか。そうですね。性感に関してもそうです。知識として学習したとしても、それを実践して確かめていき、自分のものにしていく。そのプロセスの中に経験と知識の一致が確かに見出せますね。」

    先生「そうだろう。意外となこの二つを結びつけるということに気付かぬまま過ごしている人間が多いのだよ。僕は君みたいな者にこそそれに気づいて欲しかったのだ。そう。今こそ本を持って外へ出かけたまへ。それが君の幸福の第一歩だと私は確信している。」





    1.『メアリーの部屋』 1982年にオーストラリアの哲学者、フランク・ジャクソンが提唱した思考実験。説明するのはめんどくさいからYouTubeとかで調べてみてね!


    2.アインシュタインの特殊相対性理論の話。これも暇やったら調べてみてね!




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