Hello World
地球ノみなさまコンバンワ
ーこちら不時着した機体よりー
夜の帳で飛び方さえ知らない小さな烏は
光の届かぬ瞼の奥で
ただ仄暖かみの感じる月を見つめていた。
そんな時、私を呼ぶ人の声が遠くから
確かに聞こえたのだけは分かった。
小さな私に合わせて屈みながら
月明かりを遮るその人は
二者択一を私にくれた。
「右目と左目どっちがいい？」
右目と左目とでは全く意味の違うもの。
右目を選ぶもいいだろう。
全てを壊して真っ新な状態で、クリアな視界で
世界を見つめたっていい。
ただし、血のように赤い麦酒だけは
持ち合わせておくように。
左目を選んだっていい。
色んな世界を見てきたその左目は全てを見通せるから
新しい解釈で、新しいテーゼで、
新しく世界を創り直していけばいい。
また日が昇るまで。
きっと最初からこれは必然で
壊れるべくしてこわれたから
私は次を見据えていきたい。
ただ、こんな私でいいのだろうか？
目も見えず、飛びもしない
ただただ黒いだけの小さな烏の私で、
それだけが気がかりで、
右目を選びそうになった私の小さな中趾を
大きな手で受け止めてくれた私のことを呼んでくれた人
ウアジェトの目が私の左目に宿る
光が挿さなかった瞼の奥に、小さな光が差し込む
飛び方を知らなかった烏は、ホルスとなって
いずれ飛び方を覚えるだろう。
そして、かつての私を高い所から
俯瞰しながら見下ろしているはずだ。
未来を失格にされても、
無慈悲な流れ弾食らっても、
やまない雨はないから
美しい散り方ができるように
いつでもやり直すなら諦めかけた1秒前で、
人とは違う何か？
君は君でしかないだろう？
夢を見るなら先の未来がいい。
いつか小さな烏が、金鵄になれる日まで。
卿原 千景の写メ日記
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プロビデンス・アイ卿原 千景
