これはかれこれ4年ほど前のお話しである。
伊吹は急いでいた。とてつもなく急いでいた。
駅から自宅へ疾走しながらこんなことを考える。
家までおれの足なら7分。
荷物を入れ換えてすぐに出かける。
また駅まで走り何時の電車に乗れる。
行けるか?
そうこうしてるうちにマンションに到着。
オートロックを解除するために鍵穴に鍵を入れる。
息が上がって上手く入らない。
クソ!落ち着け!
ピー!ピー!ピー!ピー!
と自動ドアがけたたましく音を鳴らしながらモタモタと開いている。
デンデンムシか!
そう悪態をつきながらまだ開ききらない自動ドアに肩をぶつけながらマンションに入る。まったく、ガラの悪い男がいたもんだ。
エレベーターまでは狭く謎に入り組んだ廊下を進むが人の気配がしない。よし、走ろう。
体感として廊下の横幅は1メートルあるかないか。
人とすれ違うのに身体を斜めにしないとすれ違えもしないほどの狭く短い廊下を爆走する。
ランの大股3歩ほど進み左に曲がる。
同じくランの大股で2歩ほど右に曲がる。
すぐ目の前に3〜4段程度の下り階段。
こんなのランの勢いでジャンプして一番下まで飛び降りるだろ!
ぴょーーーーん!
華麗なジャンプ
タタンッ!
軽快な着地から、ラストスパートエレベーターまで5歩程度のラン
…のはずだった。
気がついたら階段下で武○士(○けふじ)よろしく尻餅をついていた。
(わからない方はcmロングバージョンを検索してみてほしい。)
何故だ!?
と、不意に上からパラパラと白い粉が降ってきた。
こ…これはまさか!?
まさか、である。
階段の段数ばかりに気を取られていたが、よく見ると階段で床が下がるとの同じ要領で天井も段々と段差になって下がっていた。
ランの勢いでジャンプして一番下まで飛び降りようとしたその刹那、オデコを天井のハリに、そのハリを破壊する勢いでぶつけていたのである。
ぴょーー…華麗なジャンプ?
ズドンッ!オデコ強打
そのまま垂直落下で
ドシンッ!腰強打
さらにである。
オデコを強打した拍子に下アゴだけ勢い余って前に出たんだろう。
あい〜ん状態。
治療中の上前歯(犬歯〜犬歯の間の義歯)を下前歯が根こそぎ前にぶっ飛ばし義歯がバラバラと吹き飛び床に散らばっている。
オデコ、腰、顎、色々な部位がほぼ同時に激痛を感じることになり、着地体制も予測からはほど遠くパニック。
そしてオデコ強打で天井のハリも破壊したわけだが、そのハリが白い。
それが床に散らばっている。
おれの義歯の破片と入り混じって、もうどれがどれかわからない。
あーもーこのクソ忙しい時に!!!!!
とフガフガ叫びながら床に這いつくばり義歯の破片やらハリの破片やらをかき集める惨めな男の姿がそこにはあった。
と言うか、おれだった。
色々な破片やホコリを握りしめて部屋に戻る。
荷物を入れ換えてすぐに出かける。
後ろの予定は大丈夫だったのか?大丈夫なわけないよねw
後日、ティッシュに包んだ義歯の破片たちを持って歯医者に行くと歯医者さんは、
「あー作り直そうねー」
と言って秒でその破片を捨てて仕事に取り掛かっていた。
血も涙もない先生の行動に噛みつこうとするも前歯のないおれにはどうすることもできなかった。
有馬 伊吹の写メ日記
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▶︎ 治らないものばかり壊す。有馬 伊吹