二
酒には依存性がある。依存物質は当然ながら煙草などの方が強いが、何かを埋めるために摂取するという点では似たようなものである気がする。私が埋めたい隙間とはなんなのだろう。寂しさか、退屈か…。いや、多分葛藤だろうと思う。
気がつけば酔っていた。バーテンダーは上手に酒を作る。空きっ腹に飲んだのも良くないのだろうが、ペースもいつもより早かった気がする。
体温が高い。なんだか魂が身体から抜けかかっているような浮遊感を覚えてしまう。夜は深まっていた。バーが閉店を迎えたとき、私はバーテンダーに促され、タクシーに乗った。
タクシーは大きな国道に入って北の方角へ向かう。住宅やコンビニエンスストアの明かりが車窓を流れていく。なんとなくその全てが私が後ろに置いてきたものを取りに向かっているような、そんな想像をした。
隣にはバーテンダーが無言で座っている。ちらりと目線をやるとこちらを見てにっこり笑った。そして徐に私の左手を握った。
「顔赤いね」
「そう?」
「うん。なんかすごく色っぽいよ」
バーテンダーの声は少し高めだが、このときは声を抑えてることもあり、低く私の耳に届いた。
「ありがとう」
俯いて礼を言った私にバーテンダーはふっと息を漏らして握った手を指でさすってきた。
ホテルは住宅街の外れにある。ひっそりと寝静まった町の片隅にネオンが煌々とついた建物が隠れるように建っている。
バーテンダーが私の先にホテルのドアを開けて入るように促した。ドアを押さえるその手が中の明かりに妖しく輝く。
手頃な部屋を選択して中に入ると、右手すぐがシャワールームだった。
「手をあら…っ」
バーテンダーが強引に私に口づけた。柔らかい唇が私の唇を割り、舌が口腔内を犯す。乱暴だが、バーテンダーの舌は優しい。心臓が高鳴る。
そっと唇を離してバーテンダーは囁く。
「ごめん。もう無理」
「え…ちょっと…」
バーテンダーは再び口づけてきた。ぬるっと舌が侵入する。少し煙草の匂いが混じるバーテンダーの吐息が私に、ついてこいと囁きかける。なんて甘美なのだろうか。私の口からも甘い声が漏れる。
「ん…っ」
そのまま抱き寄せられ、片手で上着のボタンを外され、脱がされる。激しくなるキスの音と、衣擦れの音だけが聞こえる。
キスに夢中になっていると気がつけば下着を残して衣服を全て脱がされていた。バーテンダーもキスを続けながら上着を脱いで私をベッドまで連れて行った。
身体を押され、ベッドに倒れ込む。私を見下ろすバーテンダーの瞳は妖しく光り、少し濡れていた。
康成の写メ日記
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「もう引き返せない」二康成