【A Bleu Yet Blissful Morning.】- 柚香(santuario)- 性感マッサージ

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柚香の写メ日記

  • A Bleu Yet Blissful Morning.
    柚香
    A Bleu Yet Blissful Morning.

    冬になって、相も変わらず私は満員電車に揺られながら真面目に職場に向かっている。

    「よくもまあ、律儀に仕事して嫌にならないな」と大学時代の友人から呆れられるのにも慣れた。課題を投げてくる上司にも同じことを言われた時は流石に動揺したが、でも真面目の何がいけないのだ、と思っている。

    ある日出勤すると、デスクに置いてあるラップトップの端に「ちゃんと年内に有給、消化してねっ!」と手書きのメモが貼られていた。

    確かにこれといった趣味や個人的な行事がなかったので、夏に風邪をこじらせて以来まとまった休暇は希望していなかった。

    そしてふと思い浮かんだのは、自宅からほど近い山手線の駅で、一度だけお茶をした彼だった。

    私が頼んだ無糖のコーヒーの向こう側に、もうずっと前にやめてしまった甘ったるいミルクティーの湯気が揺れていたのを覚えている。


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    窓の外は灰色のどんよりとした都会から断絶された真っ白な雪景色。
    薪ストーブの火が心地よく弾ける音を聞きながら、彼がちびちびと紅茶を啜っているのを、眺める。

    間違いなく幸福な朝だ。

    「ねぇ、ハッピーな朝なのにブルーになる時ってある?」私の急な問いかけに目の前のティーカップに夢中な彼は、むくっと顔をあげた。

    彼は窓の外を指差しながら「ブルーって、カラーの話じゃないよね」と、にやにやしながら言う。

    変なブリティッシュの発音が、気になった。

    「まさか」と、私は対抗して外国映画のコケットなヒロインのように肩をすくめ、「気持ちの話よ」と補足する。

    彼は寝癖を指で触りながら少しの沈黙の後、椅子ごとこちらに向けて答える。

    「僕は、ちょっと気だるさがあったほうが、なんか人間の一日の始まりって感じがするな。」

    「というと?」

    「スッキリ起きた朝だっがんばる!って朝より、あー今日も起き上がらなきゃ仕事にいかなきゃ、あれしなきゃ、ってちょっとうだうだしてる方が正常なんじゃないかって。それを乗り切るために今みたいな旅行があると思うし。」

    「うーん、なるほどね。じゃあ私は人間じゃなくてもいいって思っちゃう。」

    「あー鉄人ね、鉄人アトム」

    いや、それは鉄腕でしょと即座に突っ込むと、彼は笑って何も言わなかった。

    「ちょっとトイレ」と彼が部屋から出ていき、私は彼がさっきまで座っていたソファに腰掛け、ゲレンデの方を眺めていた。

    太ももをさすりながら、昨日は調子に乗って滑りすぎたと少し後悔した。

    彼の言葉を無言で復唱しながら、私は普段、無意識的に理想の自分像みたいなものを演じているのかもしれない、と思った。そして少しそれに疲れてきてしまったと言うことも。

    ウォッシュレットのじゃらじゃらと言う音ととともに彼が戻ってきた。風呂桶を脇に抱えて、おんせんですよ〜、おんせん、と松任谷由美のメロディに合わせて口ずさんでいる。

    私は、昨晩に売店で買った食べかけのあんぱんをちぎりながらさっきの話の続きを続けようと彼に問いかけた。

    「じゃあさ、その気だるさがいいなって思う時ってある?」

    桶を握りしめながら「どうだろうな、例えばね」と語り始めた。

    「朝、自分が虫になってたら驚くでしょ。困惑していなくなりたくなるでしょ。」

    「あーカフカね」

    「そうそう、それでね、もし今日僕が元気100%だったら怖いなとも思うの。」

    「どう言う意味」

    「昨日のスキーのつけはどこに行ったんだろって。もし朝起きて、身体になんにも起こってなかったら、昨日あれだけ頑張ったのに筋肉痛にすらなってないのかってすこしがっかりすると思うの。それで僕は別人になってしまったのかって。昨日の自分はどこにいったんだーって。」

    「ほう」

    まだ彼の言いたいことのポイントが掴めなかった。

    「やりきれないよね」

    たしかにそれはやりきれない。

    少なからず私もふくらはぎに覚えた痛みを、小さな昨日の自分への勲章のように感じていたから。

    「じゃあみんなそれを隠して平気なふりをしているってこと。」

    私が尋ねると彼は小さく唸り声を上げながら

    「そうだね、少なくとも真面目な人は。」と答た。

    彼は満足気な顔をして、おんせんですよ、おんせんと私の手を引く。

    そして思い出したように
    「まぁ僕みたいにね」と付け加える。

    私は耳を疑った。

    前を歩く彼の背中に向かって「戻ったらお砂糖たっぷりの紅茶を淹れてよ」と呟くと
    彼は、少し驚いた顔をしたあと、目を細めて

    「もちろん」

    と答えた。







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