【『Moon River』 オードリー・ヘプバーン】- 柚香(santuario)- 性感マッサージ

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柚香の写メ日記

  • 『Moon River』 オードリー・ヘプバーン
    柚香
    『Moon River』 オードリー・ヘプバーン

    夏の終わり、箱根の夜風には、かすかな冷たさが混ざり始めていた。昼間の暑さがまだ地面に残っているものの、夜の空気は次第に秋の気配を漂わせ、夏が過ぎ去ろうとしていることを静かに告げていた。

    彼女がハンドルを握る車は、暗くなりかけた山道をゆっくりと進んでいた。窓を少しだけ開けると、外の風がひんやりと頬に触れ、木々の葉擦れの音が小さく聞こえてきた。助手席の彼は、半袖シャツの袖を少し引っ張りながら、肌寒さを感じていた。

    「もう夏も終わりだね」と彼はふと口にした。彼は窓の外を見つめていたが、その視線は夜の闇に溶け込み、明確な焦点を持たない。箱根の景色は美しかったが、どこか心を遠くに連れて行くような静けさがある。

    「そうね」と彼女は穏やかに答えた。その声には、季節の変わり目を感じさせるような、どこかしらの儚さがあった。「夏が終わるのって、いつも少しだけ切ない気持ちになるわ。特に今年は、時間がいつもよりも早く過ぎた気がするの。」

    彼は彼女の言葉をじっと聞きながら、内心では夏の終わりが何を意味しているのか、はっきりとは理解できなかった。彼女にとって、何が「早く過ぎた」のだろうか。けれど、問い返すことはしなかった。彼女の穏やかな声に包まれていると、無理に言葉を探さなくてもいいように感じられた。

    「ねえ、少しだけ曲をかけてもいい?」彼女がふと提案する。

    「もちろん、君の好きな曲をかけて」と彼は応じる。

    彼女はカーラジオのつまみを回し、車内には静かな音楽が流れ始めた。かすかなピアノの音色が、夏の終わりの空気に溶け込み、ゆっくりと車内に満ちていく。それはオードリー・ヘプバーンが歌う『Moon River』だった。柔らかく、どこか物憂げで、未来への不確かさを漂わせるメロディが、二人の間の静けさを埋めていった。

    「この曲、好きなの」と彼女は低く言った。「子どもの頃、夏休みの夜、家のベランダから星を見ていると、母がよくこれをかけてくれたの。夜が更けて、風が涼しくなると、もうすぐ夏が終わるんだなって、幼いながらに感じていたわ。」

    彼は彼女の言葉を受け止めながら、彼女がどんな子どもだったのかを想像していた。おそらく、今と同じように少しだけ大人びた、そしてどこか孤独を抱えた少女だったのではないか、と。そして今、この瞬間も、彼女は同じように、何かを抱えているのだろう。

    「それでも、夏の終わりは特別だったんだね」と彼は言う。

    「そうね。終わるからこそ、特別なのよ」と彼女は静かに答える。

    「今も、そう感じるの?」

    「ええ。だからこそ、今が美しいのかもしれないわ。もう少しで、秋がやってくる。でも、その前に、この最後の夏の夜を楽しんでおきたいの。」

    彼は彼女の言葉に頷きながら、もう一度外の景色を眺めた。夜の山道は静まり返り、遠くには小さな灯りが点在していた。季節の終焉が、そこに広がっているように感じられた。時間が流れていくことに対する彼女の受け入れ方が、彼には大人びて見えた。

    「僕も、この瞬間を忘れたくないな」と彼は、胸の奥から湧き上がってきた言葉を呟いた。

    彼女はちらりと彼を見て、微笑んだ。「そう思ってくれて嬉しいわ。だけど、忘れたくないと思うことほど、時間とともに薄れていくものよ。まるで、この曲のようにね。川が流れていくみたいに、私たちも流されていくの。全てのものはその川の流れに逆らうことはできないもの。」

    「それでも、僕は…」

    「大丈夫よ」と彼女は優しく言った。「その気持ちが今あるなら、それで十分なの。未来のことは心配しないで。今、この瞬間を楽しんでいれば、それが一番大切なのよ。」

    彼はその言葉に、静かに胸を打たれた。彼女が何を言わんとしているのか、完全には理解できなかったけれど、彼女の落ち着いた声と、その言葉に含まれた重みが、彼の心にしっかりと届く。

    車はまだゆっくりと山道を進んでいた。月は雲の切れ間から覗き、淡い光を彼らの車に落としていた。道はさらに曲がりくねり、箱根の山々の静けさの中で、二人は言葉を少しずつ減らしていった。車内にはまだあの曲の旋律が流れ続け、彼女の言葉とメロディが混ざり合い、夜の空気に溶けていくようだった。

    「川の流れに身を任せるって、少し怖くない?」彼は、不意に自分の胸に浮かんだ不安を言葉にした。「どこに流されていくのか、わからないままって…」

    彼女はハンドルを軽く握り直し、ゆっくりと息を吸い込んでから答えた。「たしかに怖いわね。特に、若い頃はそう感じていた。自分で未来を決められると思っていたし、すべての選択肢が自分の手の中にあるって信じていたわ。でも、歳を重ねるうちにわかったの。川の流れって、どう抗っても変えられないものがあるって。」

    彼はその言葉に、少し息を呑んだ。彼女の話すその「流れ」とは何を意味しているのか、まだ完全には理解できなかったが、彼女が何か大きなものを乗り越えてきたのだということだけは感じ取れた。

    「でも、流れに逆らうこともできるんじゃない?」彼は無理にでも反論するように言った。「自分で道を選んで、進むことも…」

    彼女は微笑みながら、彼を横目で見た。「もちろん、そう思うのもわかるわ。でもね、たまには流れに身を任せることで見えてくるものもあるのよ。例えば、今こうしてあなたと一緒にいることだって、ずっと前からお互いにわかりきってて、計画していたことではないでしょう?」

    その言葉に彼は一瞬黙った。彼女が自分と一緒にいることをどう捉えているのか、それを聞かされた瞬間だった。彼女にとって、この時間は、偶然の産物だったのか。それとも、意図的に選び取られた瞬間なのか。彼には、すぐにその答えが見つからなかった。

    「僕は、君とここにいることが特別だと思っている」と彼は小さな声で答えた。

    彼女はゆっくりと微笑み、そのまま運転を続けた。「それで十分よ。今、あなたがそう感じてくれるなら、それが私にとっても特別なこと。未来なんて、今の私たちにはわからないのだから。」

    彼はその言葉に頷きながらも、心の中で何かが引っかかっていた。彼女の言葉はあまりにも達観していて、未来を考える自分には理解が難しかった。しかし、彼女の隣にいると、その感覚さえも一時的に麻痺してしまうようだった。彼女の静けさと、今を楽しむという姿勢が、彼に安らぎを与えていた。

    車はやがて、箱根の見晴らしの良いスポットに差し掛かった。彼女はゆっくりと車を停めた。エンジンが切れると、車内には若きオードリーの最後の余韻が静かに残り、そしてそれも消えていった。二人の間には、車の外の静けさだけが残った。

    「少し外に出ましょうか?」彼女が優しく提案する。

    彼は頷き、二人は車から降りた。夜空は晴れ渡り、星が無数に輝いていた。箱根の街の灯りが遠くに見え、まるで夜空と地上が溶け合っているかのようだった。夏の終わりの夜風が心地よく、肌に触れるたびに、秋の訪れを静かに告げている。

    彼女は腕を組みながら、遠くの夜景を見つめていた。その横顔には、何か遠い過去を思い出しているような静かな表情が浮かんでいた。彼は彼女の隣に立ちながら、その横顔を盗み見ていた。彼女が何を考えているのかを知りたくて仕方がなかったが、同時にそれを聞くのが少し怖いような気もしていた。

    「こうやって見ると、夜景もまるで星空みたいだね」と彼は何とか言葉を紡ぐ。

    「そうね。どちらも、遠いけど美しい。手を伸ばしても届かない、けれど見ているだけで心が満たされるもの。それが、星空や夜景の魅力かもしれないわね。」彼女の声は穏やかだったが、どこか切なさが漂っていた。

    「君にとって、僕もそんな存在かな?」彼は自分でも驚くほど率直に尋ねてしまった。

    彼女はしばらく答えず、ただ夜景を見つめていた。彼の問いにどう答えるべきか、少し迷っているようだった。やがて彼女は、静かに息を吐き、視線を彼に向けた。

    「あなたは、もっと近いわ。遠くにあるものなんかじゃない。こうして触れることができる存在よ。でも、だからこそ私は、あなたがどう変わっていくのか、少しだけ怖いのかもしれない。」

    「変わるって、どういうこと?」

    「人はね、時が経つにつれて、変わるものよ。特に若い頃は。でも、その変化が私にとっても、あなたにとっても良いものかどうかは、今はわからない。それを知るには、時間が必要なの。」

    彼はその言葉に、また沈黙してしまった。彼女の言う「変わる」ということが、彼にとっても避けられないことだと感じたからだ。今この瞬間がどれほど美しくても、それが永遠に続くわけではないという現実が、胸に重くのしかかってきた。

    けれど、彼女の隣にいる限り、その不安さえも甘いものに思えた。彼女は過去を抱え、未来に対して警戒している。それでも彼女は、この一瞬を大切にしている。それが、彼にとっては何よりも魅力的だ。

    「変わっても、僕たちがこうしていられるといいね」と彼はやっとの思いでその言葉を放つ。

    「そうね」と彼女は静かに答えた。「でも、それはわからない。だからこそ、今を大事にしないとね。」

    二人は、言葉少なに夜の風景を見つめていた。月が雲の合間から顔を覗かせ、新しい季節の到来を静かに告げていた。


    Moon River, wider than a mile,
    I’m crossing you in style some day.
    Oh, dream maker, you heart breaker,
    wherever you’re going I’m going your way.
    Two drifters off to see the world.
    There’s such a lot of world to see.
    We’re after the same rain~bow’s end
    waiting ’round the bend,
    my huckleberry friend,
    Moon River and me.




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