その日は不思議な夜だった……
本業仕事を終えて、ご予約が入り
施術のあと、鏡越しにふとお客様と目が合った。
「もっと早く、じん君に出会っていたらな…」って。
じん君って、もっと優しいだけの人かと思ってた…」
今日のお客様が、施術の終わりにそう呟いたの。
それから小さな声で、続けたのよね。
「すっごくいじわるで、焦ったくて…」って。
その声、耳元にかかるくらいの距離。
肌が、ゾクってした。
わたしね、ふだんは“癒し”を求められることが多いの。
だけど、癒すって、甘いだけじゃ足りない。
身体の奥、心の奥、ほどくには
ちょっとくらい焦らして、欲張りになってもらわないと。
すぐに触れたらつまらないでしょう?
すぐに満たされたら、きっと忘れてしまうから。
“もう無理”って声を、わざと聞こえないふりして
じっくり、じわじわ、溶かしていく。
そんな夜があっても、いいでしょう?
その人の帰り際、エレベーターの扉が閉まる直前、
目が合ったの。
赤くなった頬、噛んだ唇、ほどけきらない呼吸。
…ちゃんと、わたしのこと、身体で覚えてくれてる。
あなたも、試してみる?
わたし、焦らすの、得意だから。
また会える日を楽しみにしてるね。
Story-じんより
じんの写メ日記
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【実話】5月某日 — 某ホテルにてじん