#1
マットレスの軋む音、
全身を這う感覚に漏れる嬌声と吐息、
それら全てを覆い隠すような心臓の音
透き通るような白い肌によく映える黒く細い髪
お気に入りだと言っていた少し甘めのトワレ
そこに少しの汗の匂い
幾度となく重ねたその体の色が、音色が、香りが
いつまでも、どこまでも心地よく
__深く、深く沈んでいく
その快感に身を委ねていく。
アラームの音で目を覚ます。
好きな曲で気持ちよく目を覚まそう!なんて設定したこの曲も今となっては憂鬱な朝の時間のオープニングとなってしまった。
時刻は6:45
「はぁ、、、またあの夢かよ。」
目を擦り、大きく深呼吸をして朝の支度を始める。
彼女と別れてからもう半年近く。
未練なんて無いつもりだったけど未だに夢に出る。
はじめてのデートで行った水族館も。
お揃いで買ったマグカップでコーヒーを飲みながら家で見る映画も。
何度も互いを求めあった夜も。
3年という若い僕らにとっては長い時間を一緒に過ごした。後悔がないと言えば嘘になる。だけどそれを引きずるような性格ではなかったつもりなのに。
恋は人を変える、なんて言うけどこんなに弱く変わるなんて聞いてなかった。
未だに夢に出る彼女も、今では顔もだんだんぼやけてきている。
この顔が見えなくなる時、この未練も断ち切れるのかな
そんなことを思いながらトーストの最後の1口を頬張ってコーヒーで流し込む。
カバンを掴んで片付けもそこそこの家を後にする。
「いってきます」
新庄司の写メ日記
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『つかさどる』 #1新庄司