雪村 凪の写メ日記

この日記は、過去を振り返りながら、
僕自身が当時の気持ちを思い出しつつ、
事実を書いています。

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役者を辞める決断をしたものの、
普通の職業に就けるのだろうか？

年齢は29歳。社会人経験なし。

アルバイトだったらまだしも、
社員ともなると普通なら雇ってもらえる可能性は
限りなく低い。

社会と断絶していた僕は、
そんな世の中の常識みたいなものはわからず、

「まあ、なんとかなるでしょ！」

と楽観的に考えていた。



就職先を見つけるにあたり、
どんな職業に就くかを考えた。

浮かんだのは3つの職業だ。

①飲食店
アルバイト経験もあるし、
コミュ力にも自信があったので、
ここなら簡単に決まるだろうと思った。

②料理人
料理長のおかげで調理師免許を持っていたので、
基本的なことはクリアできていると思った（本当はそうじゃないけど）。
ここも雇ってもらえる可能性は高そうだ。

③デザイナー
独学ながらデザインの実績はあった。
ただ、仕事としての経験はない。
受かるのは難しいかもしれないが、
もし受かったら面白いだろう。
あと、単純に「デザイナー」という職業がカッコいいと思った。



悩んだ末に選んだのはデザイナーだった。

飲食店は経験がある分、飽きていたし、
料理人の世界は怖いから嫌だった（料理長、ごめんなさい）。

とはいえ、デザイナーだけに絞ると求人が少ない。
そこで、パソコンを使える契約社員の仕事も視野に入れて探すことにした。

ある日、
恵比寿の会社の求人を見つけたが、
応募を迷っていたら
「決まっちゃいました」
と言われてしまった。

急いで応募しないとダメなんだな、と学んだ。



その後、たまたま「未経験OK」のデザイナー求人を発見。
しかもWindowsでのデザインの仕事らしい。

当時、デザイナーといえばMacが主流。
僕はMacを触ったことがなかったので、
Windowsでの仕事はありがたかった。



急いで会社に電話をして、面接の希望を伝えた。

「他の人からもたくさん応募があるので、
面接の日程が決まりましたら連絡します」

とのことだった。

翌日、電話が来た。面接をしてくれるという。

僕は心から喜んだ。やっと半歩進めた。

しかし、面接の日は明後日だという。
その日はバイト先が特に忙しく、
出勤を頼まれてOKしたばかりの日だった。

役者を諦めてから、僕はバイトに励んでいた。
店長はそんな僕を応援してくれていたし、
今度は僕が店長を応援しなくちゃと思っていた。

だから、電話口で
「その日はちょっと都合が悪いので、別の日でお願いできませんでしょうか？」
と打診した。

しかし、

「他の人の都合もありまして、
それと、この日しか面接官の日程が空いていないのです」

と機械的に言われてしまった。

「なんとかならないですか？」
と伝えても、なんともならないらしい。

「わかりました。少し考えさせてください」

そう言って電話を切った。



暑さがピークに達している真夏の昼。

僕は座椅子に腰を下ろし、ぼんやりと天井を見上げる。

「これ、本当に断っていいのか……？」

頭の中で何度も問いかける。


店長には恩がある。
でも、このチャンスを逃したら、次はないかもしれない。

他にも求人はある。
けれど、正社員で、未経験OKで、
Windowsでのデザインの仕事なんて、
そう簡単に見つかるものじゃない。

日差しが照りつける外の景色をぼんやりと見つめながら、
心の中で何度も答えを探した。



僕は、覚悟を決めて、店長に電話をかけた。

「……すみません。明後日のバイト行けません」

「え！大丈夫だって言ってたじゃない。」

「はい、そうなんですけど、急用が入りまして…」

しばらく沈黙が続いた後、店長の声が返ってきた。

「……わかったよ。」

「はい……本当にすみません」

店長は渋々了承してくれた。

電話を切ると、部屋には静寂が戻った。

深く息を吐く。

「これでいいんだよな……」

胸の奥に小さな痛みを感じながらも、
僕は新しい道へ踏み出すことを決めた。

こうして僕は、
デザイナーの面接を受けることになった。

（つづく）



雪村 凪（ ゆきむら なぎ ）
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