雪村 凪の写メ日記

〈雪村凪物語　第7話〉プロダクション探し

この日記は、過去を振り返り、
僕自身当時の気持ちを思い出しながら
事実を書いています。

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劇団を退団した僕は、
役者として活動する道を模索していた。
劇団員の先輩の話によると、

「プロダクションに入ってる人は、
チケットノルマもないし、給料ももらえてる」

そう聞いて、僕はプロダクション所属を目指すことにした。

当時は『月刊Audition』や『月刊De☆View』
という雑誌が発売されていて、
そこから情報を得るのが主流だった。
いくつかのプロダクションに応募し、
映像関係に強い、小さなプロダクションに
所属することができた。

入所してすぐにオーディションの話が舞い込み、
WOWOWで放送されるドラマの、
主役のアシスタント役が決まった。
デビュー早々仕事が決まり、
事務所の人からも、

「いいぞ、この調子でどんどん行こう！」

と期待されていた。

この時代、テレビドラマと同じくらい
オーディションの話が多かったのがVシネマだった。
Vシネマとは、レンタルビデオ専用の映画のことで、
特に任侠モノ（『ミナミの帝王』など）が人気だった。

当時の僕は正統派の路線だったのだが、
ある日、プロダクションの担当者から呼ばれた。

「お前、もうちょいイカツイ感じにしないか？」

「え？ イカツイ感じですか？」

「そう、ヤクザ系。今、その路線の方が仕事が多いんだよ」

そう言われて、短髪にされ、柄シャツを着せられ、
アクセサリーをジャラジャラ巻いた宣材写真を撮影。
笑顔は一切なし。

しかし、その路線は当たり、
オーディションでも次第に配役をもらえるようになっていった。
とはいえ、なかなか主役・準主役級の作品には巡り会えない。

そんな時、プロダクションの社長に呼ばれた。

「濡れ場のシーンはいける？」

「えっ……濡れ場ですか？」

「今、成人映画の仕事の依頼、結構来てるんだよね。」

Vシネマの成人映画は、
ストーリー重視ではあるが、必ず濡れ場がある。
例えば、『キャバクラ必勝ガイド』や『パチスロ無宿』など。

本番行為はないものの、
男女とも「前貼り」と呼ばれる布やテープで股間を隠して演技をする。
カメラワークを駆使し、
あたかも本番が行われているかのように見せるのだ。

僕は迷った。

その道を選べば、主役級の仕事ができる。
収入も増え、バイトを辞められるかもしれない。

でも、結局は断った。
濡れ場の映像が過去の記録として残ることに抵抗があった。

社長に会い、

「せっかくのお話ですが、お断りさせていただきます」

そう伝えると、

「そうか……まぁ、わかった」

と渋々承諾した。

僕は 「任侠系で頑張って、主役や準主役をもぎ取る」
と意気込んでいた。

しかし――

オーディションの話は激減した。
社長にとって、言うことを聞かない役者は
気に入らなかったようだ。
濡れ場OKだった同期の仲間には、
どんどん仕事が入っていった。

ある日、同期の仲間が言った。

「お前、社長に嫌われたな。
最近、オーディションの話もらえてないだろ？」

「……まぁな」

「これからどうすんの？」

彼に言われて、意思が固まった。
このプロダクションにしがみつく意味はない。

僕は社長に退所の意思を伝え、
新たなプロダクション探しを始めた。

振り返れば、あっという間の1年半だった。

（つづく）


雪村 凪（ ゆきむら なぎ ）
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