雪村 凪の写メ日記

〈前回までのお話〉

僕はサラリーマンの道を選ばなかった。
入社を辞退し、別の人生を歩むことにした。

その後、どうなったのか？
今回は、その続きを書こうと思う。



就職活動を終え、内定をもらった僕は、
「大学生のうちにやれることをやっておこう」と決めた。

社会人になれば仕事で忙しくなるし、
長期の休みも取りづらくなると思ったからだ。
当時は、まだ有給を自由に取れる時代ではなかった。

何をしようか考えたとき、ふと浮かんだのが
「役者にチャレンジしてみよう」ということだった。



きっかけは、就職活動中に訪れたテレビ局や広告代理店。

裏方の仕事を知るうちに、
「舞台裏ではなく、表に立ってみたい」
そう思ったのだ。

幸運なことに、芸能人や役者さんに会う機会もあった。
みんな、キラキラしていた。

中でも印象的だったのが豊川悦司さん。

ドラマの撮影現場にたまたま居合わせ、
挨拶すると、素敵な笑顔で返してくれた。

なんとも言えない優しさと、
大人の雰囲気をまとったオーラ。
僕は、一瞬で魅了された。

サラリーマンでは決して醸し出せない空気感。

「こんな色気のある大人になりたい」

そう思ってしまったのだ。



就職活動が終わったのをきっかけに、
卒業までの期間、役者の養成所に通い始めた。

そこで学んだのは、役者としての
マナー、芝居、発声、ダンスなどの基礎。
しかし、3ヶ月ほど通ってみて、
養成所だけではデビューまでの道のりが遠いと感じた。

当時は、唐沢寿明さん、岸谷五朗さん、寺脇康文さんなど、
劇団出身の俳優がテレビで活躍し始めた時代。
彼らの演技力は、タレント俳優とは一線を画していた。

「活躍するなら、劇団で実力をつけた方がいい」

そう考えた僕は、ある有名俳優が主宰する
劇団のオーディションを受け、無事合格。
研修生としてスタートを切った。

最初は卒業までのつもりだった。
けれど、役者の世界にどんどんのめり込んでいった。

そして、気づけばタイムリミットはもうすぐそこまで迫っていた。



僕は覚悟を決めた。
入社を辞めて、役者の道を歩むことに。

ただ、気がかりだったのは親にどう説明するかだった。

大学まで行かせてもらったのに、内定をもらったときも喜んでくれたのに、
その期待を裏切ることになる。

それでも、どうしても諦めきれなかった。

実家に帰省したとき、僕は正座し、父の前で頭を下げた。

「30歳まで役者をやらせてください」

父は公務員で、真面目で厳格な人だった。

きっと反対されるだろう。
何度も説得する覚悟だった。

けれど、父はあっさりと言った。

「わかった」

後に理由を聞くと、

「30歳までと言っていたし、お前ならまあ、大丈夫だろうと思った」

そう言ってくれた。



こうして役者の道を歩むことになったのだが——
その先には、たくさんの苦悩や出来事が待ち受けていた。

この先の話は長くなるので、今日はこの辺で。

（つづく）



雪村 凪（ ゆきむら なぎ ）
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