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秋山 純士の写メ日記

秋山 純士

秋山 純士  (40)

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  • 『あの頃の風物詩』
    秋山 純士
    『あの頃の風物詩』

    散歩中、
    老舗感が漂う八百屋の前を通り過ぎたとき、
    チリン、と耳に届いた風鈴の音。
    思わず振り返る。
    忘れかけていた夏の景色が、
    一瞬で頭の奥に差し込んできた。

    入道雲。
    アサガオ。
    蝉の鳴き声。
    ラジオ体操のスタンプ帳。
    夕暮れの縁側で漂う蚊取り線香の香り。

    どれもが、
    僕の中で「過去の風物詩」になりつつある。
    今ではどれも、日常に溶けることなく、
    記憶の片隅でホコリをかぶった
    宝箱のように眠っている。


    不思議なことに、
    忘れられない夏の思い出は、
    必ずといっていいほど、
    あの頃の風物詩とセットで蘇る。
    感情と風景は、切っても切り離せない。
    風鈴ひとつで、心の奥底がうずき出すのは、
    きっとそのせいだ。

    本当は、あの頃みたいに
    毎年「風物詩」を更新できたらいいのだろう。
    でも、スマホと冷房に頼る生活では、
    入道雲も、蝉時雨も、遠い絵画のよう。


    とりあえず──
    蚊取り線香でも焚こうか、と考えたが、
    この部屋には蚊がいない。
    代わりに、最近はデスクでお香を焚いている。
    かすかな煙が立ちのぼるたび、
    頭の中の夏も、少しずつ温まっていく。

    過去の風物詩を、
    新しい形で呼び戻すために。
    今日も僕は、静かな部屋で
    小さな火を灯し、文章を書く。