第一話 おもい
いつの間にか
行かなくなっていた
毎月決まっていた時間
毎回同じ空気
同じ香りが辺りを漂う
理由を聞かれれば
忙しくなって、と笑っていた
でも本当は違った
あの人のことが
気になってしまったから
施術を担当してくれていた彼は
柔らかい言葉で
どこか掴みづらくて
でも不思議と
その空気に惹かれていた
好きかどうかなんて
そんな簡単な話じゃない
そう言い訳をしながら
気持ちをごまかしていた
彼は何気ないことしか言わない
それが心地よかったはずなのに
いつの間にか言葉の裏を探すようになっていた
私だけに向けられたものなのか
誰にでもそうなのか
そんなことを気にしてしまう自分がいた
そこから先は早かった
気持ちが顔に出るのが怖くなり
通うこと自体をやめた
見透かされそうで恥ずかしかった
自分が誰よりも
その気持ちを認めたくなかった
笑って流せばよかっただけ
きれいになるための時間だったのに
こんな想いなんて持ち込むものじゃなかった
けれどSNSだけは
時々覗いていた
月に数回
誰に向けたでもない投稿が
ふと目に入ってくる
何気ない喫茶店のことや
ありふれない音楽の話
好きでもなさそうな猫の話
添えられた言葉は
意味があるようで
何も言っていないようでもある
その曖昧さが
やけに彼らしくて
どうしようもなく
目に残った
久しぶりに見た投稿には
こう書かれていた
「一区切り」
その一文を読んだ瞬間
心がざわついた
辞めるのかもしれない
どこかへ行くのかもしれない
もう二度と会えなくなるかもしれない
そう思ったときには
予約ページを開いていた
想いがどうとか関係ない
理由なんて後付けでいい
私はただ
行きたくなっただけ
それだけなんだ
第二話 一区切り
予約ボタンを押したあの日から
何度も画面を見返していた
本当に行くのか
本当に彼に会うのか
自分の中で確信と疑念が交互に揺れていた
あの投稿の意味は何だったのか
「一区切り」という言葉が
どうしても頭から離れなかった
辞めるのか
遠くへ行くのか
それともただの言い回しなのか
彼のSNSは相変わらずだった
緑につつまれたいつもの写真
心をはぐらかすような無機質の画像
文の切れ端に
何かを見出そうとする自分がいる
過去の投稿を振り返っては
解釈しきれない投稿を
なぜか保存してしまっていた
好きじゃないはずなのに
気になって仕方がない
それを気になる程度と呼ぶには
重過ぎる感情になっている
会っていた頃の記憶が
浮かんでは消えていく
施術の帰り道
軽く交わしたあいさつ
鏡越しに目が合った瞬間
誰にでもあるような時間が
私には特別だったのだと
今になって気づいた
——約束の日時はすぐにやってきた
駅を降りると
日差しをかいくぐって
時おり冷たい風が頬を過ぎ去る
空は少し霞んでいて
記憶の中のあの空気と重なっていた
街の雑踏
すこしすさんだ臭い
華やかに感じる幻想だけの世界
すべてが久しぶりなのに
まるで昨日の続きのようだった
顔が見えない受付は懐かしく
しかし緊張は膨らんでいく
会計が終わるまで
安いアクリルに反射する自分を見つめる
心だけでなく表情にも緊張が見えた
どんな顔をして
彼と向き合えばいいのか
正解がわからなかった
チャイムが鳴り
ゆっくりと扉が開ける
そこにいたのは——
第三話
かさねる
そこにいたのは彼だった
黒い服
変わらない立ち姿
少しだけ視線が合って
何も言わずに小さく頷いたように見えた
私は黙って頭を下げた
心が少し浮ついていた
香りも声も
立ち居振る舞いも
あの頃と同じだった
髪の色だけ
少し落ち着いた気がした
彼は流れるようにタオルを整え
私はベッドに横になる
目を閉じると——
——時間が過去へと滑り出す
施術が終わったあと
眠れました、と伝え
彼は少しだけ笑った
そんな過去の記憶
声に出して笑ったわけじゃない
でも確かにその目元はゆるんでいた
あれがきっかけだったのかもしれない
あの笑顔がずっと頭から離れなかった
施術中に視線がぶつかった時もあった
ほんの一瞬の何でもないような時間
それが妙に嬉しかったのを覚えている
なのに私は
通うのをやめた
気づかれたくない
悟られたくない
その気持ちを知られたくなくて
自分で距離を取ってしまった
——そんな彼が今目の前にいる
まるでデジャヴのように
過去の記憶と目の前がかさなる
目を閉じたまま
彼の手が足に触れる
肌と肌がかさなる
一瞬動きが止まったような気がした
たぶんこちらの反応を窺ったのかもしれない
言葉はなかったけれど
きっと痛くなかったかと
確かめたかったのだと思う
私は深くも明るい呼吸をはいた
息抜きを始めるかのような
感覚だけで呼吸で伝えた
それで伝わったようだった
この無言のやりとりが
以前と何も変わっていないことが
不思議と嬉しかった
——気付けば私は鏡の前でピアスをつけていた
施術が終わり
最後に腕時計をつける
足取りは心とは裏腹に軽くなっていた
受付をあとにして
彼に手を振り別れをつげた
何かを伝えたそうに見えた
けれど彼の笑顔が私を押し出す
声にはならなかった言葉が
残像のようにそこにあった
言いかけた言葉の続きを
私は知ることができなかった
けれど
あの投稿の意味だけは
まだ心に引っかかっていた
「一区切り」とは
結局なんだったのだろう
第四話
次へ
数日ぶりに開いた画面に
新しい投稿が載っていた
6月の予定について
予定というわりには未定の
"二年目も"いつも通りという内容だった
彼らしいとも言えるし
少し意外でもある
要するに
一年が経っただけなのだろう
ストレートに表現しないのが彼
微笑みの奥に少しの不思議が見える
そこが彼の魅力なんだろう
ひっそりとした世界
一周年を祝う気なんてない
だから「一区切り」と表現したんだと思う
そんな彼の姿勢を勝手にくみ取った
けれど
そこまでなら
正直どうでもよかった
私が目を止めたのは
その投稿のタイトルだった
「時もかさねて」
時だけをかさねるだけではない
時もかさねるのだ
そして
かさねるということは
ひとつでは成立しない言葉
けれどその曖昧さが
彼らしくもあって
不思議と胸の奥に残った
私はまた
予約ページを開いていた
——そして時が経つのはあっという間だ
エレベーターの中で
ひとつ深呼吸をしてから
扉が開くのを待った
あの日と同じ香りが
鼻先をかすめた瞬間
胸の奥がじんわりと熱くなる
バスタオルを渡され
無言の合図で導かれる
その軽さが妙に懐かしかった
枕に顔をうずめ
目を閉じると
時間がゆっくりと流れていく
彼と私の肌が"かさなる"
彼の手は変わらず正確で
まるで感情を持たないようにすら見える
けれど
その無機質さの中に
時おり何かが混ざる気がした
間を置いて
一瞬だけこちらの反応を探るような
そんな動きがあった気がする
たぶん気のせいだ
そう言い聞かせたけれど
内心ではそれすらも嬉しかった
——そして時が経つのはあっという間だ
以前なら
言葉を交わそうとしていたはずの場面で
私は何も言わなかった
彼も何も聞こうとしなかった
なのに
心が"重なる"かのように
"想い"が通じるような気がした
施術が終わり
彼が軽くこちらを見た気がした
何か言おうとしたのかもしれない
でも結局
言葉にはならず
そのまま私は着替えに向かった
部屋の外に出たとき
空気が少し軽くなっているのを感じた
受付をあとにし
彼にまた別れを告げる
そのまま彼は
いつもの笑顔で
わずかに口元を動かした
ありがとう、と
言ったような気がした
あるいは
またね、と
伝えようとしたのかもしれない
どちらでもよかった
私はただ
軽くうなずいた
スマホを取り出し
次の予約を確認する
来週の同じ時間が
空いていた
もう理由がなくても
ここに来ていい気がした
気持ちを隠すために
遠ざかる必要なんてなかった
通い始めた頃の私とは
少しだけ違う自分が
今ここにいる気がする
おわり
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