【【夜に明ける】第四話】- 国見 孝太郎(FIRST CLASS)- 出張ホスト

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国見 孝太郎の写メ日記

国見 孝太郎

国見 孝太郎  (36)

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  • 【夜に明ける】第四話
    国見 孝太郎
    【夜に明ける】第四話

    第四話
    きっかけ


    年が明けるって、何がめでたいのだろうか

    新年のあいさつが嫌いだ
    亭主関白な父親が嫌いだ
    タラレバの話をする奴が嫌いだ
    嫌いな事ばかりが多い自分が嫌いだ
    もう何もかもがイヤだ

    嫌いな事にも無関心だったはずなのに
    後悔が、負の感情が私の心を揺さぶる

    ベランダから見える景色を眺めても
    吸えもしない電子タバコを握りしめても
    イライラが止まるはずがない


    子供の頃、親に手を引かれて行った初詣が嫌いだった
    人波を掻き分けきれず、それでも引っ張られる手
    知らない大人に囲まれる息苦しさと不安

    大人は自由を奪い、進むべき道を阻んでくる

    中学に入る頃、人生で初めて両親に拒否を示した
    ……それ以降、正月は億劫な行事になった

    仕事は好きな方ではないけれど
    家にいるよりはよっぽどいい
    尻拭いだろうと頼りにされる私がいる

    新年の空気感が溢れた街並みも嫌いなのに
    気持ちが押しつぶされそうな私は家を飛び出した




    何もかも否定するように
    いつもと違う電車に乗り
    いつもは避けるターミナル駅で降り
    人の通りが少ない方へと足を向けて歩く


    気付けば繁華街の大通りにいた

    私が大人になったのか、時代の流れなのか
    あの頃ほどの活気が街からは感じられない

    繁華街の奥へ行くほどさらに人の数も減り
    ちらほらとカップルが歩いている程度
    いや、カップルではないのかもしれない

    立ち並ぶホテルから出てくる男女もいれば
    周りを気にしながら入口へ消える男女
    見てはいけないものを横目で見ながら
    足早にその一帯を抜け出す

    カイロ代わりのお茶を自販機で買い
    気付けば神社のそばを歩いていた

    やっぱりあの頃よりも人波を感じない
    昔とは違う風景が目の前にあった

    記憶が塗り替わると共に
    負の感情が少しずつ薄れていく……

    ーーおみくじ、引いてみようかな


    自分自身への反抗期なのだろうか

    思い返せばおみくじなんて引いた経験がない
    理由は単純で、親の許可が下りなかったからだ
    もし凶を引いたら、その一年が不幸になるそうだ

    ーーそっか、親への反抗期か


    タバコを吸う事よりも抵抗はないし
    彼にメールをするよりハードルは低い
    でももし大吉が出たら、彼に連絡してみよう

    ーーとにかく変わるきっかけがほしい!




    ……結果は吉だった

    また心にぽっかりと穴が空いた
    冷たい風が頬に当たる
    買ったばかりのお茶のぬくもりが不快に感じる
    大吉さえ引いていれば彼に会えたかもしれない
    でももう彼はこの世界にも、あの世界にもいない

    だけど彼に会いたい
    叶わないなら「彼の文章」に触れるだけでいい
    そう想って、彼のアカウントを開いた




    ーーふふふっ、やっぱり彼は面白い


    止まったはずのアカウントに新しい投稿があった
    まるで今の私の背中を押すような
    私の見透かされた心にイタズラをするような
    そんな不思議な小説が投稿されていた

    なぜ小説を書いたのか、理解はできない
    いや、彼が私に理解できるはずもないし
    理解する必要もない
    彼はいつだって私の価値観の、常識の外側にいる


    ーー彼にメールしてみよう!

    どんな人かは今もわからない
    結果は大吉じゃないかもしれない
    でも私の吉はハズレなんかじゃない
    おみくじの結果の価値は私が決めればいい!

    彼に会う時はどんな格好でいこう?
    彼に会ったらどんな話をしよう?
    初めての挨拶はあけましておめでとうかな?
    でも正月早々に初めての連絡だなんて非常識かな?
    絶対にキモいって思われる……


    ……宝くじを買ってもいないのに
    また私は無駄な事を考えてしまった

    どうせ返事なんて来ないだろう
    期待さえしなければ少しは気がラクだ
    そんな想いで彼にメッセージを送信した


    ーーダメだ、待つのがツラい

    そんな感情に押しつぶされそうな私は
    耐え切れずに送信履歴を削除した

    そしてスマホを鞄にしまった瞬間
    微かに振動音が鳴ったような気がした
    年賀メールすら届かない私のスマホなのに

    感じたことのない息苦しい感覚
    胸で感じ、耳にまで届く心臓の鼓動
    私はゆっくりとスマホのロックを解除した


    相変わらずモザイクで表情がわからないアイコン
    堅苦しくない気さくな文章
    まだ会ったこともないのに


    私は止められない笑顔をマスクで隠し
    夕陽が沈む街に背を向けて
    街灯が導く駅の方へと駆け出した




    改札を抜けたと同じくらいに発車のベルが鳴り
    急いで電車に飛び乗る

    幸運にも空いていた端の席に腰を掛け
    握りしめていたスマホのロックを解除し
    荒い呼吸に気付いた私は深い一息で呼吸を整える

    ーー届いたばかりの、私だけへの「彼の文章」
    今、同じ時間に存在している


    そして……
    彼への期待感を隣に乗せて
    私は、ゆっくりとホームから動き出したーー




    おわり


    「物語の続きはお問い合わせの先に……」




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