<愛は、この世に存在する。きっと、在る。見つからぬのは、愛の表現である。その作法である。>
(『思案の敗北』太宰治)
先日、月に一回の血液検査中にフラッシュバックした思い出の話。
高校の頃、ちょうどこの時期に人生初めての彼女が出来た。
相手は才色共に申し分のない、年上の人。
仲良くなったきっかけは、
自分が何かの拍子に指を切った時に、絆創膏を巻いてくれたこと。
そして、その時に話した
「お互い冷え性で血の巡りが悪い」という共通の話題だった。
交際を始めてすぐ秋の盛りが訪れ、その頃になって
「こんな冷える手を握らせてはいけない、むしろ温めてあげなくては」
と左腕を鍛え始めた。
別に相手に好かれたかった訳でも善意が在った訳でもない。
今思えば、そこに介在したのは、
「しなくてはならない」という強迫観念だったように思う。
残念なことに、この向こう見ずな奉仕は
相手には恐怖でしかなかったらしく、
後日の破局の一因となってしまった。
人を愛するのは、あまりにも難しい。
そんなことを、冷え切った指に針を刺しながら、
自分はただ思い出すのでした。