砂浜。
砂浜でした。
漁港の隅っこの、玄関大の小さな砂浜。
そこで彼は5001粒のガムと、5002本の煙草とを喫みながら、
誰かがやって来るのを待っていたのです。
真っ赤に焼けた肌の、急拵えを恥じながら。
それでも彼の心ゾウは力いっぱいに
「バルカローレ*」を歌い上げ
彼自身の6/7拍子と、和解を試みるのでした。
やがて去り行く日は、海洋との幾度目のレビラトを執り行い
水平線はその眠たげな睫毛を暫くの間もたげましたが、
その茜色の眼差しは、
彼の影をひどく歪めて引き延ばした外に
何一つ射止めるものはありませんでした。
そして彼の赤い肌が次第に黒ずんで行くにつれ
夕焼の茜もまた薄暮の闇へと空を譲り渡し、
それでも彼は光輪(コロン)を待ち至るものかと思われましたが
ついぞ舟唄は鳴り止むことを知らず、
月待てば潮も叶ひぬと
彼は幻色の風浪へ漕ぎ出で、
烏賊なる群れを余多過ぎ越え
しかし終には夜光虫を天上に見るのでした。
おわり。アーメン。ギョメイギョジ。