「毎回のお客様の顔を覚えていますか?」
と聞かれることがあります。
答えはもちろん、「はい」です。
でも、ただ顔を記憶しているわけではありません。
私が覚えているのは、その瞬間に流れていた“空気”ごとです。
指先がふれたときの貴女の小さな震え、最初に見せてくれた緊張した笑顔。
ふと話した音楽や映画などの趣味の話。
「美味しね!」って言った瞬間の表情。
全部が、私の中に鮮やかに残っています。
会話の中で出てくる、何気ないキーワードも忘れません。
好きな香り、最近ハマっている音楽、眠る前の習慣。
そのひとつひとつが、次に触れるときの“導き”になるから。
セラピストは、ただ身体に触れるだけではありません。
会話の余白や沈黙の呼吸から、貴女の心の輪郭を感じ取って、
どんなふうに触れたらあなたがほどけていくのかを探していく。
だから、すべての時間が“記憶に残る”んです。
たとえ一度きりでも。
貴女が私に身体を預け、目を閉じ、心を開いてくれたその瞬間を、私は忘れません。
肌に触れる前に、貴女の言葉が心に触れている。
そう感じることが何度もあるんです。
自立して、前を向いて、日々を頑張る貴女に。
強く見えるその姿の奥に、誰にも見せていない“素の貴女”がいることを、僕は知っています。
だからこそ、私の腕の中では、無防備になってほしい。
硬くなった心を、優しくゆっくりほぐしていく時間。
息づかいが混ざって、体温が重なるうちに、
いつのまにか言葉じゃない会話をしているような、深い静けさに包まれる。
「覚えていてくれて嬉しい」
そう言ってもらえるたびに、私の中でも何かがあたたかく揺れるんです。
一緒に過ごした時間は、記憶じゃなく、余韻としてずっと残り続けているから。
Noah 陸
陸の写メ日記
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