女風の仕事を始めたばかりの頃、正直なところ、性感を楽しんでもらうことだけを考えていた。
日常では味わえない快感や刺激を提供すること。それがこの仕事の中心だと思っていた。
性的な開放、非日常、エロス。
そういうものを求めて来る人のために、自分の技術を磨いて、満足してもらうことがすべてだと思っていた。
けれど、続けていく中で、少しずつ見えてきたものがあった。
性感そのものではなく、「感じられないこと」や「濡れない自分」に悩んでいる人。
パートナーとの関係に悩み、誰にも話せずにいる気持ちを吐き出す場として、この場所を使ってくれる人。
来てくれる理由は、快感そのものじゃないこともある。
性の話に真剣に向き合いたい、自分の身体や感情を知りたい、ただ誰かに話を聞いてほしい。
そういう声を聞く機会が増えていった。
それに触れるたびに、自分の在り方を見直さなきゃいけないと感じるようになった。
性感の技術や時間の提供だけでは、本当の意味で“寄り添う”ことにはならない。
何を求めているのか、どうしてこの時間を選んだのか、その背景にある想いをきちんと受け止められる人間でありたいと思った。
そうしてたどり着いたのが、自分は「第三の居場所」であるべきだという考えだった。
家庭でも職場でもない、だけど本音を話せる場所。
無理に明るく振る舞わなくてもよくて、気を張らずにいられる時間。
性感があってもなくても、成立するような空気。
その中でなら、性のことも、日常のことも、誰かに話せなかった悩みも、自然にこぼれるかもしれない。
俺はその空気をつくるために、ここにいる。
快感を与えるだけでは終わらない、“もうひとつの居場所”として在れるように。