「引き際」
女風の仕事に終わりはあるのか。
考えたことがないわけじゃない。
むしろ、いつかは終わるものだと分かっている。
でも、それを決めるのは自分ではなく、周りの流れなのかもしれない。
俺にとっての「引き際」は、昴というセラピストが忘れ去られた時だ。
女風の世界は流れが速い。
毎年のように新しいセラピストが増えて、注目される人間もどんどん変わっていく。
俺が今こうして活動できているのは、お客様がいてくれるからだ。
だけど、兼業の仕事が忙しくなって、Xや写メ日記の更新が減ったり、活動に対する熱が少しずつ薄れていけば、自然と昴という存在は人の記憶から消えていくだろう。
そうなった時、それが俺の引き際なのかもしれない。
ただ、辞めると決めるのは簡単じゃない。
次にやりたいことが明確になったとしても、それでも辞めるという選択はあまり考えていない。
両立できるなら続けたい。
俺は自分がやりたいと思うことを、自分で選んでやっていきたいから。
女風の仕事を全うした時、後悔はしたくない。
だからこそ、今を全力でやり切るつもりだ。
辞めた後に残るものがあるとしたら、それは今まで指名してくれたお客様のことだろう。
どこかでふと思い出すことがあるかもしれない。
でも、それが未練になるかと言われると、そうじゃない。
人との出会いはどの仕事をしていてもあるものだし、別れがあるのも自然なことだ。
「引き際」を考えた時、お客様の存在はもちろん大きい。
でも、俺は自分の人生を自分で決めたいと思っている。
過去の俺は、親が望む仕事を選び、他人の敷いたレールを歩いてきた。
だけど、今は違う。
他人の意見は参考にはするが、最終的に選ぶのは自分だ。
だから、お客様のために無理に続けることはしないし、逆に「辞めろ」と言われて辞めることもない。
女風セラピストとして活動を終えたら、昴ではなく本来の自分に戻るだけ。
でも、それでも大きく変わることはないと思う。
昴としての経験は、今後どこかで必ず活きるはずだから。
この仕事には、はっきりとした引退のルールはない。
自分よりも年上のセラピストもいるし、続けようと思えば続けられる。
だからこそ、どこで引くかは、そのセラピスト自身に委ねられているんだろう。
俺が今すぐ辞めるとしたら、何か心残りはあるか。
正直、特にはない。
だからこそ、今はただ、俺がこの仕事を通じてやれることを精一杯やるだけ。
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