ある男が引っ越しの際に古くなったパンストを捨てて行く。
次の日の昼過ぎ、男に非通知番号から電話が掛かって来た。
「私メリーさん、今ATSUGI FACTORY OUTLET 南町田グランベリーパーク店にいるの」
男は訝しんで電話を切る。
しかしまたすぐに、
「私メリーさん、今GUNZE OUTLET グランベリーパーク店にいるの」
男は再び訝しんで電話を切る。
どうやら電話の声の主は『駅、商業施設、公園などがひとつにつながった新しいまち。240店舗を超えるアウトレット複合商業施設や、スヌーピーミュージアムなどがあるパークライフ・サイト、多様なアクティビティが楽しめる鶴間公園など、さまざまな施設が融合した南町田グランベリーパーク』にいるらしい…
男がそんなことを勘案していると約一時間後にまた、
「私メリーさん、今トゥシェ 西友吉祥寺店にいるの」
何やらお店を移動している…?
男は店名を思い出し検索してみる…
約40分後…
「私メリーさん、今fukuske 銀座インズ店にいるの」
合点がいった!どうやらこのメリーさんと名乗る人物はストッキングの販売店を回っているらしい…
だけどなぜこんな長距離を?靴下屋とかに行けば大抵の取り揃えはあるのに…
そしてどうやら都内中心に近づいているようだ…
「私メリーさん、今CalzedoniaTokyo Shibuyaにいるの」
そして脳裏におぼろげにかかっていた不安という靄が明確なものになった。
どうやら我が家に近づいているみたいだ…
今度は電話ではなく玄関のチャイムが鳴った。
恐る恐るインターホンのボタンを押す…
「私メリーさん、南町田グランベリーパークから田園都市線で一度渋谷に出てから井の頭線に乗って吉祥寺まで行って、その後中央線に乗って四谷乗り換えの丸ノ内線で銀座に行って、それから銀座線で渋谷まで来る大移動をしたわ。各店舗であなたの好きそうなパンストを買ったわ」
どうやらメリーさんはそれぞれのお店でパンストを買い、それらを履き回しながらわざわざ長距離移動することによってパンストを熟成しここまで来たようだ。
不用意にパンストを捨てるべきではない。使い古したパンストにこそ愛が宿るんだと教訓を得た一日であった。