下北沢は本多劇場で、□字ックの第14回本公演『タイトル、拒絶』を観劇してきた。デリヘルの待機所を舞台に、そこで働くキャストや内勤スタッフ達が織りなす生々しい人間模様を中心に進む物語で、昨年公開された映画版を観ていたから粗筋は把握していたものの、映画とは違うリアルさと迫力に飲まれて、あっという間に時間が過ぎていった。
観劇直後の率直な感想は「ぐぁぁ」だった。「〇〇が△△で面白かった」とか「〇〇さんの芝居が凄かった」じゃなくて、シンプルに「ぐぁぁ」だったのだ。もうね、登場人物達があまりにも人間剥き出しで、その発言や一挙手一投足に心をかき乱されるんです。政治や宗教みたいな大きな物語なんて全然顔を出さないで、個々人が内包する小さな物語同士がバチバチにぶつかり合いながら進行する構成がたまらなくスリリングでした。
特に、劇中で放たれる「私の人生に、タイトルなんて必要でしょうか?」ってセリフが印象的で、部屋に帰って布団に入ってからもそのセリフを頭の中で反芻しながら、その意図を考えていました。
個人的にこのセリフって「モブとして生きていかざるを得ない人生のどうしようも無さ」から発せられる言葉だと思っていて、「タイトルのある人生(≒わかりやすい権威や功績を持ってるとか)」への強烈なカウンターに聞こえるんですよ。
構造として、この世界のどこかに「タイトルのある人生」ってのがあって、それに対して自分の人生には凡そタイトルと呼べるものはないが生きていかざるを得ない。そこで、人生に対するタイトルを「敢えて」拒絶する姿勢を取ることで、この「私の人生に、タイトルなんて必要でしょうか?」というセリフが発せられる。そんで最終的に公演名である『タイトル、拒絶』へと収斂していくメタっぽい流れなのかなぁと思いました。
本当は人生に対するタイトルを拒絶する必要なんてないのに、そこを敢えて拒絶するってのがリアルで、人間的なんですよね。他にも、お店の売れっ子風俗嬢のマヒルが道化を演じきれないシーンや、内勤スタッフの山下が「俺ってクズだからさぁ」みたいなことを言うシーンが印象的でした。
舞台設定がデリヘルの待機所ってのも良いんですよ。例えばホワイトカラーの会社を舞台に同じようなストーリーを展開することもできるんだろうけど、それだと『タイトル、拒絶』みたいなヒリヒリしたライブ感は出ないんじゃないかと思いました。
上記のこと全てをひっくるめて、観劇後は「ぐぁぁ」と思いながら床に就いたのです。
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なおの写メ日記
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タイトル、拒絶なお