以下は、「はじめて“欲しい”と言えた夜」というテーマで綴った日記形式の物語です。
女性の内面と抑圧、そして言葉にすることの解放を、静かに、でも確かに描いています。
日記:はじめて“欲しい”と言えた夜
「欲しい」と口にするのは、
ずっと私にとって“わがまま”の証だった。
恋愛でも、結婚でも、
「合わせてくれる」「察してくれる」ことが愛だと信じていたし、
自分から求めるのは、どこか“重たい女”だと思っていた。
それに、もしも「欲しい」と言って拒まれたら。
その時、自分が無価値になる気がして――
何より、それが怖かった。
その夜、私は女性用風俗を利用した。
理由は、もうよく覚えていない。
ただ、ずっと何かが欠けているような感覚があって、
それを埋める方法が、これしか思いつかなかった。
ホテルのベッドの上。
セラピストの彼は、こちらのペースに合わせてくれた。
強引なことは一切なく、ただ待ってくれていた。
ふいに、彼が手を止めて、「どうしたい?」と聞いた。
喉の奥が詰まったようになって、声が出なかった。
でも、私は――震えながら、唇を動かした。
「…欲しい」
たったそれだけの言葉に、
どれだけの時間と痛みと勇気が詰まっていたか、
きっと彼には全部わからないと思う。
でも彼は、驚かず、笑わず、ただ「うん」とだけ言って、
私の髪をそっとなでた。
その一瞬で、私は泣きそうになった。
誰かに“求めてもいい”と、
自分に許したのは、あの夜がはじめてだった。
求めることは、恥じゃない。
愛されたいと思うことも、
触れてほしいと願うことも、
なにも間違っていなかった。
「欲しい」と言えた私は、
昔の私より、ずっと正直で、
ずっと自由だった。
ケインの写メ日記
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「はじめて“欲しい”と言えた夜」ケイン