オチも何にもない話です。
強いて言えば
「だいじょうぶかな…」とか
そんな感じになると思います。
※※※※
その日はとにかく
ちょっと寒かったのと
ギリギリに家を出て
時間も余裕がなかったので
やや急ぎ目に通勤をし、
会社まであとちょっと
…というあたりの
大きめの交差点で
信号待ちをしていました。
そこそこ車通りのある
交差点だったんですが
対岸には同じく
会社員ぽい男性が
5人くらいと、
制服姿の小さな女の子が
一人立っていました。
多分中学生だったんじゃ
ないかなと思います。
そして信号が
青になって
僕は横断歩道を渡るべく
急ぎその中に侵入して
いったんですが、
突然、進行方向、
前方の地面に、
大量の紙が
ばらまかれました。
普通に歩いて
いただけなので
最初は何が起こったのか
あんまりよく
把握できなくて。
何事かな…と
驚きつつ
小走りに近寄って見ると
どうもそれは
ぐちゃぐちゃに
折り曲げられたり
乱雑に畳まれたりした
学校のプリントであることが
確認できました。
そして視線を地面から
前に向け直すと、
制服姿の女の子が
片方の肩にかけている
長方形のバッグの
チャックの半分が空いており
ばら撒かれたプリントは
その中からこぼれ落ちて
いるようでした。
このバッグの開き方も
とても不自然で、
バッグは長方形の
底辺以外の縦横270度に
チャックがついている
構造だったんですが、
半分くらいが
空いていて。
さっきまで彼女が
(おそらく)背負っており
交差点までは何事もなく
歩いてきたであろうバッグが
なぜ突然空いていたのか。
凄くふしぎでした。
しかしそんな事よりも
まずは道路にばら撒かれた
紙の回収です。
さすが
日本人というべきか
その場に居合わせた
サラリーマンの計6人は
そそくさと手分けをして
全員で紙を拾い集めました。
そして各人が両手に
紙をいっぱいに持ち、
女の子と一緒に
全員が元いた歩道
(僕にとっては対岸)に、
避難しきったところで、
信号がちょうど赤に
変わりました。
信号が切り替わる前に
全ての紙を
ちゃんと拾い終えた
達成感、
そして全員が無事に
歩道に戻れた安心感を
覚えつつ、
持ち主の女の子に
紙を手渡そうと
したのですが、
この女の子の反応が
すごく変わっていて。
彼女が僕らを見る顔が
ずっと無表情なのです。
大変なことが起こったとか、
紙が拾えてよかったとか
そういう想定される
リアクションはおろか、
泣き顔でも
ありがとうでも
かなしいでも、
怖がってるでも
不思議そうでもなくて。
どの感情も
一切抜け落ちたように
ただひたすらに無表情を
浮かべています。
お体に障碍があるようにも
見えなかったし
僕らが紙を渡せば
それはちゃんと
受け取って
ぐちゃぐちゃのまま
バッグにしまうし
顔を見るとちゃんと
目も合うのですが
その瞳にはなんの
喜怒哀楽も浮かんでいなくて
ただただ無言で
無表情。
最初は
「紙が拾えてよかった」だった
皆の雰囲気が
どことなく微妙なものに
変わるまでにはそう
時間はかからなかったと
思います。
しかしとにかく皆
出勤中でもあるし
紙は持ち主に返さなくては
いけません。
そして全ての紙が女の子により
バッグに収納されたころ、
信号が再び青になったので
その場は自然と解散になり
全員が無言のまま
横断歩道を渡っていきました。
僕だけは反対方向だったので
直進して会社へ向かったのですが
ほんの数分の出来事の
何もかもが不思議で。
何度か後ろを
振り返ってみたのですが
女の子は普通に横断歩道を
渡って歩いていました。
なんとなく
「学校でいじめられてないかな」
「家で大変なことがないかな」
…と、心配をしつつ
出勤をしたんですが、
それからあの子には
会っていません。
洋介の写メ日記
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中学生の女の子の話 洋介洋介