【恋愛時計 第20話「セッション」】- 弦之介(amen)- 性感マッサージ

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    恋愛時計 第20話「セッション」

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    第20話 セッション

    家に帰るとすぐにシャワーを浴びた。そうしないと身体があの熱に包まれたままになってしまう気がしたから。


    「ママー、パパから電話があって今日は少し遅くなるってー」

    「はーい、わかった」

    ホッとした。普通じゃない自分を見たら、かずが違和感に気付くかもしれないからだ。

    帰宅途中、祥子の中に一瞬見えなくなっていた罪悪感がわき上がってきた。今、シャワーを浴びながら罪悪感と自分の中の女が戦っている。だとしても、もう動き出してしまった恋愛時計が誰にも止められないのはわかっていた。


    翌日、祥子は3回目のデート予約をした。どうしても確かめたいことがあったからだ。このままでは奏の前で裸体をさらして、好きなようにして欲しいという思いが進んでいってしまうのはわかっていた。


    一旦立ち止まり、音を通してその感性がお互いの波長を増幅させてひとつになれるのかどうかを確認したかった。魂がひとつになれるのかどうかを。


    それは祥子の最後の抵抗だったともいえる。


    魂が共鳴しなかったら、恐らくこの高まりは急速に萎んでいくだろう。

    反対にもしひとつになったら、祥子のブレーキのワイヤーは切れる。猛スピードで進む自分を止められなくなる怖さはあったが、その裏側には確かに期待感があった。


    そのために涅音にギターを持って来られるか店舗に確認してもらい、スタジオに入らないかと誘ったのだ。


    3日後、二人はスタジオにいた。不思議な感覚だった。祥子はピアニストの顔になり、涅音は奏の顔になっていた。

    ピアノの音を確認する際の簡単なプレイを聴いた涅音は驚いた。

    (なんて綺麗な音なんだろう)

    「祥子さん、かなりピアノ弾けるんですね」

    「前にちょっとだけやってて、今は子どもたちに教えてるの。ちょっと弾いてみようかな」

    と言ってラ・カンパネラを弾き始めた。驚きのあまり口を開けたまま見ていた涅音は演奏が終わると沸き上がる感情を抑えきれなかった。あれほどスマートだった涅音が、涙を浮かべて強く拍手していたのだ。

    (なんて繊細で力強くて包み込むようなあたたかい音なんだろう。優しさと怖ささえ感じてしまう・・・)


    その時、涅音は、いや、奏は祥子に畏怖の念のような、神々しさのようなものを感じて心を撃ち抜かれた。祥子が奏のギターに貫かれたように。


    奏はお返しにEDGESWEETを弾いた。祥子の演奏を聴いた後ということもあり、いつもより情感溢れたギターの音が流れる。その音と心を込めて弾く奏の姿に祥子もまた深く貫かれたのだった。

    その時、確かに二人はとても繊細な世界にいた。


    そして祥子は最後の確認をするために奏のオリジナル曲「翼」を演らない?と提案した。

    「はい、でもわかりますか?」

    「いいの、弾いてください」


    奏が弾き始めると祥子が美しいアレンジでピアノをかぶせる。


    ユニゾンと三度、五度のハモりやジャズスケールを自在に操る祥子はまるで魔法を使う妖精のような演奏で奏のギターに彩りを加える。

    (うそだ、翼がとんでもなく素晴らしい曲になっていく)

    奏もそれに呼応するかのように自然とビブラートが強くなり、弦を弾く右手も熱くなっていく。

    (ああ、何てこと、私の魂が奏の魂に吸い込まれていきそう)

    祥子と奏は演奏中目を閉じて二人だけにしか見えない世界にいた。時折同じタイミングで目を開け、お互いの存在を確認していた。それは甘い雰囲気やエロチックなものではなく、魂のゆらぎや響きを確認し合っているようだった。

    (私たちひとつになっているのね)

    (こんな体験は初めてだ)

    エンディングを迎え、ふたつの魂は完全にひとつになりお互いの演奏と感情がお互いのものになっていた。魂が絶頂を迎えると同時に曲が終わった。

    演奏を終えた後、二人はしばらく放心状態だった。それはまるでひとつになっていた魂がそれぞれの肉体に帰っていく時間のようだった。

    この光景を見ていたら、とても女風のデートコースとは思えなかっただろう。むしろ劇場で繰り広げられる音の叙情詩のようだった。それほど芸術的で圧倒的な光景だったのだ。




    「どうして黙ってたんですか?」

    「言うべきタイミングもなかったから。ただ奏くんの曲をピアノで弾いてみて才能に気付いて、どうしても合わせたくて」


    奏も祥子の奏でる旋律の優しさと美しさの虜になっていた。

    「祥子さん、もっと演奏しましょう!」


    その夜、祥子と奏は演奏家同士にしかかわらない恍惚を何度も味わった。


    奏はこんなにも魂のレベルで波長が合う祥子と身体もひとつになれたらどんな感動が押し寄せ、どれだけの幸福感に包まれるのか想像していた。


    ただ奏は涅音であり、それを求めることはセラピストとして到底許されることではなく、そのことが歯がゆかった。


    祥子は女としてではなく演奏家としてこの恍惚を味わっていた。そして演奏家としての自分の魂を掘り返すような、想像を越えた感動に驚きを隠せなかった。


    「奏くん、あなたの才能はとても素晴らしいと思うの。だからもっとたくさんの人に聴いて欲しいし、たくさんの人の前で演奏して欲しいと心から思うの」

    「ありがとうございます、祥子さんのような素敵なピアニストの方に誉められると本当にそんな気がしてきます」

    「本当よ。絶対に大丈夫、応援します!あ、もう時間だわ、帰りましょうか」

    「祥子さん、・・・あの、また会いたいです」


    奏はセラピストの涅音として言ったことのない言葉を発した。正確には涅音としてなのか奏としてなのかは曖昧だった。それほどまでに祥子の芸術的な魂に心を持っていかれたのだ。


    「うん、また店舗に予約入れますね」

    「いえ、あの、もし良かったらLINE交換していただけませんか?」

    「LINE?いいの?」

    「はい、LINEに直接連絡してください」

    「わかりました」


    二人はLINEを交換した。以降、いつでもお互いに連絡を取り合うことができるようになり、急速に距離が近づいていった。



    ===========

    この物語は以前ポストした内容が元になっています。



    結婚して家庭に入った時

    無意識に止めてしまった



    恋愛時計



    再び動かしたのが

    女風だとするなら



    電池を入れ換えた

    若いセラピストと

    恋愛年齢は同世代



    その時だけは

    動き続けてる

    時計を隠して



    臆することなく

    恋をしましょう



    その時あなたは

    自分が思うより

    かわいいんです



    気付いてますか?




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