恋愛時計
第24話 最後の一線
祥子と涅音、いや、奏はホテルにいた。奏が会いたいと思う気持ちと同じ、それ以上に祥子は奏に会いたかったのだ。気付いたら祥子は予約を入れていた。
二人はすぐに肌と肌を合わせ、慈しむようにお互いの温もりを感じていた。お互いに気持ちよくなってもらいたいと願い、お互いにお互いの手で誰よりも気持ちよくして欲しいと思っていた。
祥子が何度か絶頂に達し、奏自身に触れていた時、二人は同じことを思っていた。
(ひとつになりたい)
女風では最後の一線は守らなければならない。どれだけお互いが望んでもルール違反であり法律違反になる。
そのことはわかっていた。だからこそ言葉にすることが出来なかった。ただお互いの身体は、いや、魂も含めてお互いの存在が間違いなくそれを強く求めていた。
二人だけしかいないこの空間なら誰にもわからない。言わない限りバレることもない。そういうことが普通に行われているのも知っている。
もう我慢できない!でもダメだ、ダメだダメだ!と奏はほんの少し残された理性で自らを律していた。
その時、奏の男性自身に向けていた紅潮した顔を奏に向けて、祥子が切なそうな目で訴えた。奏はすぐにその意味を理解した。その目はこれまで見たことのないような美しさと艶やかさだった。
「奏くん・・・」
その妖艶な唇の動きと甘い声で、なんとか持ちこたえていた奏の欲望のダムが決壊した。もう誰も二人を止められない。
奏は起き上がり祥子の足を広げ下半身と下半身を近づけ、考えられないほどに固くなっている自分自身を欲望の雨に濡れた祥子の花園に擦りつけた。
「あー・・・」
「はぁ」
二人はとろけそうになり魂が交わる準備ができた。
「祥子さんに入れたい」
「お願い・・、来て」
奏が祥子に優しく突き刺すために腰を引いた瞬間、祥子の電話が鳴った。
祥子はハッとして着信画面を確認する。紗弥からだった。
「出た方がいいんじゃないの?」
「うん、ごめんね、ちょっと待ってて」
祥子はガウンを羽織ってベットから降りた。
「はい、紗弥、どうしたの?」
「ママ、今どこ?きつかったから学校早く帰ってきて熱計ったら40度だったの。早く帰ってきて」
「え!40度!!わかった、すぐ帰るから横になって安静にしてなさい。解熱剤は飲んだ?」
「うん、さっき飲んだ」
「待っててね」
「うん」
奏も電話の内容は大体把握していたようですぐに言った。
「祥子さん、早く帰って。僕のことは気にしないで」
「うん、ごめんね、ありがとう」
急いで服を着替えていると、奏が残り時間分のお金を渡してきた。
「いいのよ、それは」
「いやダメ、そんなところで甘えたくないよ」
「・・・わかった、ありがとう。これで娘に何か買っていく」
「うん、そうしてあげて」
祥子は急いで先にホテルを出て紗弥の待つ家に急いだ。
一人残された奏はまだベッドにほのかに残る祥子の温もりに触れながら呟いた。
「これで良かったんだ」
これまで一線を越えたり、裏で会ったりしたことは一度もない。それはセラピストとしての、というより男としての奏のプライドだった。
それに涅音として祥子とひとつになることは彼女を大切にしているとは言えない、そう冷静になって考えた。
奏は電話がかかってこなければ越えていたであろう自分が情けなくなって、ベットに拳を打ち付けていた。
祥子は家路を急いでいた。
(紗弥が熱を出して不安なときに私は何をやってるの?)
本当に家族の幸せを一番に考えているのだろうか?女としての幸せと家族の幸せは両立できないのだろうか?そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
家に着くと薬のおかげで少し楽になった紗弥がいた。安心したのか涙が出てきた。
「ママ、どうしたの?大丈夫だから」
「不安な時にいてあげられなくてごめんね」
「ビックリさせちゃってごめんね。あ、何これ、ゼリー?やった!食べていい?」
「うん、どうぞ」
祥子はそんな紗弥を見て心から安心していた。そしてその時、奏の面影は存在していなかった。
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この物語は以前ポストした内容が元になっています。
結婚して家庭に入った時
無意識に止めてしまった
恋愛時計
再び動かしたのが
女風だとするなら
電池を入れ換えた
若いセラピストと
恋愛年齢は同世代
その時だけは
動き続けてる
時計を隠して
臆することなく
恋をしましょう
その時あなたは
自分が思うより
かわいいんです
気付いてますか?
弦之介の写メ日記
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恋愛時計 第24話「最後の一線」弦之介