恋愛時計
第16話 二度目の出会い
デート当日、祥子は何を着るか悩んでいた。それ以前にかわいい下着を持っていないことに気付いた。
(でも服を脱ぐことはないよね、だってデートって決まってるんだもんね)
ウキウキして初めて男性とデートする気分だった。
青系のワンピースにヒールで代官山の駅近くで奏を待っていた。もう少ししたら彼が来る。祥子はドキドキを抑えることが出来ずに何度も深呼吸していた。
中目黒の演奏会の後に話したこと覚えてるかな?覚えていて欲しい気持ちと忘れていて欲しい気持ちが祥子の中で交錯していた。
それと同時にこんなに歳が離れてるのに大丈夫だろうか?一緒に歩くと迷惑じゃないだろうか、と急に不安になった。
予期せぬ瞬間にふっと奏が現れた。
「初めまして祥子さん、今日はお誘いいただきありがとうございます。涅音です、よろしくお願いします」
周りに聞こえないように配慮した声だったため、顔が近い。フワッといい匂いがする。まずい、祥子は思った。
「お荷物お持ちします」
と受け取り、反対の手のひらを差し出して手を繋ぐ流れを自然に作る。
(え?手を繋ぐの?こんなのダメよ、スマートすぎるわ)
祥子が下を向いたまま手を差し出すと、涅音は優しくその手を引き寄せて手を繋いだ。
「晴れて良かったですね」
「祥子さんのような綺麗な方と歩けて嬉しいな」
当たり前のように車道側を歩き、段差のあるところでは声をかけてくれて注意を促してくれる。
(こんな男性、会ったことないかも)
経験したことないことばかりで、何を話したのかも忘れるぐらいだった。
デートの最初は代官山のフレンチレストランで少し遅いランチ。終始話し方が優しくて丁寧。育ちの良さが出ている。
YouTubeで話すときよりもゆっくりと少し高めの声のような気がした。
ふと、右手の甲の二つのほくろが見えた。そうだ、この人は奏だ。あまりにも心地よくて涅音という別人だと思っていたが、祥子にとっては奏だった。そして初めましてじゃない、一度会って握手しているのだ。
「祥子さん、祥子さん?どうかしましたか?」
「あ、ごめんなさい、ボーっとしちゃって」
「つまらない話をしてすみません」
「いえいえいえ、そうじゃないんです、あの、デートなんて久し振りだから緊張しちゃって」
「そうなんですか?祥子さんかわいいですね」
(この余裕はモテる人だから?それともセラピストだから?わかんないよ)
ランチのあとは代官山でウィンドウショッピングを楽しんだ。まるで恋人同士のような時間だった。
駅まで送ってくれて、その別れ際、繋いでいた手にキスした後に涅音は言った。
「今日はありがとうございました。一緒に代官山を歩けてとても楽しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「ハグしていいですか?」
「え、あ、は、はい」
涅音のハグが気持ち良すぎて祥子はうっとりしていた。
「じゃ、またお会いしましょうね」
「はい、また」
改札を抜けて振り返ると笑顔で手を振る涅音がいた。祥子も最後に満面の笑みで手を振ることができた。
(涅音が凄いのか奏が凄いのか、もうわからない。こんなデート初めて。これは本格的にまずいかもしれない・・・)
この日、祥子の恋愛時計が動き始めた。
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この物語は以前ポストした内容が元になっています。
結婚して家庭に入った時
無意識に止めてしまった
恋愛時計
再び動かしたのが
女風だとするなら
電池を入れ換えた
若いセラピストと
恋愛年齢は同世代
その時だけは
動き続けてる
時計を隠して
臆することなく
恋をしましょう
その時あなたは
自分が思うより
かわいいんです
気付いてますか?
弦之介の写メ日記
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恋愛時計 第16話「二度目の出会い」弦之介