恋愛時計
第12話 出会い
動画ではアコースティックアレンジされたEDGESWEETが流れた。
その指のしなやかかつ力強い動きで奏でられるダイナミックな演奏に、祥子は胸の高鳴りを覚えた。
(何?この感じ。懐かしいのにドキドキするのは何でなの?)
間奏になるとタッピングやスラムを用いたスパニッシュギターのような溢れる情熱が押し寄せてくる。祥子は何の抵抗も出来ないまま貫かれた。あの頃感じていたエクスタシーのようなものが電流のごとく身体中に流れた。
(あぁ・・・。この感じ。これってSHINのプレイで感じていたのと同じだわ)
演奏が終わった時、祥子の呼吸は乱れていた。SWEET ANGERが解散した日から23年間封印していたあの感覚が甦ったのだ。
(どうして・・・)
祥子は思い出したくなかった。何故ならそれを求めてしまう自分を止められる自信がなかったからだ。
動画の詳細にはこう書いてあった。
「プロのギタリストを目指している26歳です。今回は小さいころ母がよく聞いていたバンドの曲を自分なりに料理してみました」
(26歳!?その年齢であの演奏?嘘でしょ)
祥子は信じられなかった。YouTubeの動画で26歳の若者にエクスタシーを味わわされたのだから。
祥子はその若者のことを知りたくなりSNSに飛んだ。
名前は嘉野川 奏。顔はどこにも出していない。そのことが余計にミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
こんなに素晴らしい才能を持っているのに動画再生数は二桁、SNSのフォロワーも300人ちょっとだった。
このことは家族には言えなかった。それほどまでに衝撃的な出来事だったのだ。
それからというもの、公開されている動画を毎日何度も聴くようになった。彼のオリジナル曲をピアノで弾くことで改めてその才能の素晴らしさに気付いた。
一体どんな人なんだろう?
祥子は子供の年齢に近い若者に強い興味を持ってしまっていた。もし先に彼を知っていてあの演奏を聴いたら、もしかしたらそこまで興味はわかなかったかもしれない。
どんな人なのか未知数で無防備の状態だったから貫かれたのだと祥子は自らに言い訳を繰り返した。
そんなある日、告知動画が公開された。演奏会のお知らせだった。
6月26日(金)18:00 中目黒blue jazz
胸が高鳴った。そこに行けば奏の演奏を生で聴けるだけでなく顔もわかる。どんな人なのかもわかるかもしれない。
もっと知りたい。
祥子はその好奇心を止めることはできなかった。
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この物語は以前ポストした内容が元になっています。
結婚して家庭に入った時
無意識に止めてしまった
恋愛時計
再び動かしたのが
女風だとするなら
電池を入れ換えた
若いセラピストと
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その時だけは
動き続けてる
時計を隠して
臆することなく
恋をしましょう
その時あなたは
自分が思うより
かわいいんです
気付いてますか?
弦之介の写メ日記
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恋愛時計 第12話「出会い」弦之介