恋愛時計
第6話 和夫
2ヶ月後、SHIGEは行きつけのサロンにいた。いつも頼んでいるスタイリストに本当にいいのか確認されたが「決心が鈍らないうちに切って!」と頼んだ。
SHIGEにとって長髪はアイデンティティーであり、音楽に情熱を注いでいるという意思表示でもあった。それが今、なくなっていく。
何よりも優先してきた自分の志が終わりを迎える。どんどん切られていく大切な髪。
ただ悲壮感はなかった。むしろ清々しい気持ちが沸き上がってくるのは間違いなく祥子の存在があるからだった。
SWEET ANGERの解散でポッカリ空いた心の穴は祥子が既に埋めていた。
「ジャーン!」
祥子と待ち合わせしていた三宿のカフェにそう言いながら現れたのは和夫だった。
「えー!SHIGEさん、あ、和夫さん、全然違うー!」
祥子には髪を切ったら本名の和夫だからSHIGEとは呼ばないでね、と話していたが思わず口に出てしまった。
「SHIGEはさっきこの世界からいなくなりました、今は和夫です」
そう言うと続けざまに話した。
「いやー、だよねー、自分でもびっくり。エリートサラリーマンっぽくない?」
「う、うん、そうかも」
そんな勢いで話されたら否定などできるわけもなかったが、心の中では子供みたいで愛しいと思っていた。
「っしゃー!何だか凄く新鮮なんだけど首の後ろがスースーするんだよね、ははは」
「風邪引かないようにね」
「わざと風邪ひいて祥子に看病してもらうのも悪くないなー」
「何言ってんのよー、ふふっ」
祥子はこの他愛もない会話に猛烈に幸せを感じていた。
==========
この物語は以前ポストした内容が元になっています。
結婚して家庭に入った時
無意識に止めてしまった
恋愛時計
再び動かしたのが
女風だとするなら
電池を入れ換えた
若いセラピストと
恋愛年齢は同世代
その時だけは
動き続けてる
時計を隠して
臆することなく
恋をしましょう
その時あなたは
自分が思うより
かわいいんです
気付いてますか?
弦之介の写メ日記
-
恋愛時計 第6話「和夫」弦之介