恋愛時計
第4話 SHIGE
外に出た時、他のメンバーが囲まれた隙にSHIGEは祥子の所に行った。
「急にごめんね、寒くなかった?少し歩こうか」
SHIGEは歩きながらバンドの状況について話し始めた。動員が徐々に減ってきて危機感を持ったSHINがタイミングよく他の人気バンドに誘われ脱退する意思を固めたこと、そこから他のメンバー同士もギクシャクし始めたこと、新メンバーを入れてまた出直すほどのエネルギーがバンドに残っていなかったことなど、正直に話した。
それは何度もライブに来てくれていた祥子に対する誠実さだった。
ひとしきりバンドの話をしたとき、祥子はSHIGEに訊ねた。
「このあとSHIGEさんはどうするんですか?」
「音楽はきっぱり辞めるつもりだよ」
「そうなんですね・・・寂しいな」
「俺さ、そんなに才能ないことに気付いてたから。SHINについていってただけかもしれない」
「そんなことないです!私、SHIGEさんのベース、好きですよ」
嬉しかったがSHIGEはもう踏ん切りがついていた。10年以上やってれば自分に才能がないのは痛い程わかる。
「・・・あのさ」
「ええ」
「祥子ちゃんに伝えたいことがあって」
「何ですか?」
「俺と付き合って欲しい」
「え?!ど、どういうことですか?」
「ずっと前から好きだったけどメンバーとファンの関係の中では言えなかったんだよ」
「ちょっと待ってください、えーと、ふー」
「好きな人いるの?」
「す、好きな人ですか・・・(とてもSHINが好きだなんて言えない)。あの、今は特定の人はいません」
「ほんと?良かったー!!!」
祥子はSHIGEにいつもの笑顔が戻ったのが嬉しかった。
「それでね、俺、普通のサラリーマンをやろうと思ってるんだ。音楽とバイトしかやって来なかったけど、ちゃんと社会人としてやれるかチャレンジしてみる」
それを聞いた祥子は解散前から覚悟を決めていたSHIGEに、ステージ以外で初めて男を感じたのだった。
「SHIGEさんなら大丈夫だと思います!」
「ほんと?そう思ってくれる?良かったー!だったら、えーと、3年、3年でしっかりサラリーマンとしてやっていけるって証明できたら僕と結婚してください!!」
(えーーーー!!!!!何々、この展開。まだ付き合うって返事もしてないし、お互いまだよく知らないのに、け、結婚?!何なのこの勢い!やっぱりバンドマンだから?)
「いや、あの急に言われても・・・」
「うん、もちろんそうだと思う。だから少し考えてもらえないかな」
「は、はい、わかりました」
「これ、俺の電話番号。気持ちの整理がついたらいつでも電話して」
「はい・・・」
「ありがとう、駅まで送っていくよ」
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この物語は以前ポストした内容が元になっています。
結婚して家庭に入った時
無意識に止めてしまった
恋愛時計
再び動かしたのが
女風だとするなら
電池を入れ換えた
若いセラピストと
恋愛年齢は同世代
その時だけは
動き続けてる
時計を隠して
臆することなく
恋をしましょう
その時あなたは
自分が思うより
かわいいんです
気付いてますか?
弦之介の写メ日記
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恋愛時計 第4話「SHIGE」弦之介