とっさに何かを言ってやろうとして課長の顔を見据える。
しかし彼は後ろめたさなど微塵もない澄んだ瞳で、真っ直ぐとこちらを見返していた。
「ホテル入った時点でさ、こうなるのわかってたでしょ?」
学生のようにシニカルな笑みを浮かべる課長が、なぜかそのとき初めて男の人らしく見えた。見えてしまった。
「それは、そう、ですけど」
この人はおかしい。
おかしいことを言っている。
頭ではそう感じているはずなのに、なぜか何も言い返せない。
「ほら、横になって」
優しく両肩に体重をかけられるだけで、私の身体はいとも簡単にベッドに落ちた。
「でもブラウス、シワになるから」
やっと口から出たアホみたいな言い訳に、佐々木課長が優しく苦笑する。
「そうだね」
ブラウスのボタンが外されていく。
「あっ……」
永瀬くんから飲み会の連絡が来たあの夜に買った、黒いレースの下着が胸元から覗く。
「大人っぽいね? 似合ってるよ」
「やめて、ください」
息を切らしながら、なんとかそう言った。
すると課長が何を察したのか、その手を止めた。
そしてそのまま黙って私を見下ろしていた。
「やっぱ永瀬がいいんだ?」
「はい……」
肩で呼吸をしながら、頷いた。
「そっか」
課長は深く納得したように深呼吸をすると、ふたたび私の上に覆い被さってきた。
突然、空を雨雲に塞がれたようだった。
「ちょっと、なにっ」
とっさに脚を閉じようとしたが、がっしりとした膝が先回りして、すでに私の太ももの間を占拠していた。
「え、なん、で」
困惑する私を観察しながら、課長の人差し指が、汗を吸って湿ったストッキングをなぞっていく。アルコールのせいで敏感になった太ももの筋肉が、私の意思と関係なくビクビクと震える。
そして太もものつけ根までたどり着いた指先は、タイトスカートの中で行ったり来たりを繰り返す。
「やめっ、て、ください」
下半身から直接、痺れるような感覚が脳にひびいてくる。
このままだと本当にヤバい。
上体を起こそうと試みたが、無駄だった。
課長は私の抵抗など気にもとめず、タイトスカートを裏返しにめくりあげていく。
「なにして……」
そのまま腰までスカートの裾をまくられ、ストッキングをまとっただけの下半身が丸出しになった。
「なにってほら、永瀬が良いんだろ?」
課長が、ベッドの上に立てた柱のような両ひざを左右に広げ、私の股関節を押し広げていく。
「そんな……え、あっ……」
そのときだった。私に覆いかぶさる課長の肩越しに、目が合ってしまった。
いつのまにかシャワーを終えていた、下着姿の永瀬君と。
「だめっ……!」
私はとっさに両手で顔をおおい隠した。だが顔だけ隠しても、大事なものはなに一つ隠せていない。
結果、大きく広げられた自分の股間を意識せざるを得ない姿になり、かえって羞恥心がつのった。
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瀬戸口めぐるの写メ日記
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同僚以上、主従未満 第1話 -5/11-瀬戸口めぐる