第65号「MIKINOKIMI」
2023年3月24日、学生時代に、体格が良くて眉毛がキリッとしてて目がぱっちりしてて色白で涙ボクロがある屈強プリティな見た目の先生がいて、僕のクラスとは別のクラスの担任だったんだけど、最初はすごい女子に人気があって、ただ2ヶ月くらいしたら、人格的な部分の気持ち悪さと生徒を見下すようにも見える態度の横柄さと頭の回転の悪さがバレて、女子にめちゃくちゃ嫌われてた。
つまり残念な人だった。
"残念な人"って言葉をしっかり使ったのはこの時が初めてかも知れない。
あまりの女子からの嫌われっぷりが理由だったのか僅か一年で異動することになるんだけど、全校集会での最後の言葉が僕には刺さった。
「皆さんにどうかお願いがあります。学生時代がピークで終わるような人間にはならないでください」
おそらく、その先生は、ほぼイジメみたいに廊下ですれ違うたびに悲鳴をあげていた担当クラスの女子たちに向けて、女々しく嫌味のように放った言葉だと思ったけど「今が一番楽しいじゃ絶対にダメだよな」ってうっすら感じてた実樹少年には素直にその言葉が刺さった。
刺さったものの、そんな残念で嫌われてる先生の格言に感銘を受けたなんて公には言えない。
そんな中で仲良しメンバーのうちの一人が「さっきの○○先生の言葉は普通にその通りだったな」ってボソッと言ってて、あ!そうだよね!言いづらいけど同じこと思ったんだよ!って意気投合して、今でも親友だ。
初代残念人間の残念先生に続き、次に残念だったのはレストランでウェイターのバイトをしてた時の厨房のチーフシェフ。つまり残念シェフだ。
当時アラフォーでありながら、大学生のアルバイトの綺麗なお姉さんと謎に奇跡的に付き合ったものの、職場を離れた途端、厨房以外ではおそらく男性的な魅力に乏しかったようで、というか言動が僕が見てもわかるくらいキモかったので、僅か二週間でフラれる始末だった。
それだけなら何の問題も無いが、その後業務に支障が出るくらいその人のことを引きずり続けて大迷惑かけてた、そんな感じの残念な人。
幻の元カノ(元カノと言えるような交際キャリアじゃないので)が、フードを取りに来ると、料理の皿を出さない、幻の元カノが休憩に入ると厨房の忙しさ関係なく自分も休憩に入り、壁にもたれかかって無言でタバコを吸い続ける、幻の元カノが他の男子大学生のアルバイトと談笑すれば睨みつける、みたいな、私怨に駆られたそれはそれは酷い幼稚な振る舞いだった。
嫌気が刺したのか、僕からしたら先輩にあたるそのお姉さんは、アルバイトを辞めることに。
そこで、店の営業が終わった後、みんなで集まって送別会をしようってことになって、集まったのだけど、その時に、残念シェフは何故か一人ギターを持ち込んで、場の流れなんて何もかも無視して、さっきまでお客様が食事していたテーブルの上に腰掛け、Mr.Childrenの『HERO』を涙目で弾き語りしていた。
幻の元カノお姉さんはずっと無視してた。
帰り道、みんなで駅に向かって帰ってる途中、ギターケースを抱えて歩く残念シェフにお姉さんが「タクシーで帰れば?」って言ってたのが最後の会話じゃないかな。
残念シェフが改札をくぐった瞬間、お姉さんは男子大学生のアルバイトとどこかへ消えてった。
僕は残念シェフと同じ方向の電車だった。
ちょっと人に嫌な顔されながらギター抱えて電車に乗り込んだ残念シェフが僕にボソッと言ってくれた言葉が刺さった。
「歌で人の心を動かすって簡単なことじゃないよな」
出来なかった人が言うのだから、それはそれで言葉が重たい。
昨今は説得力や納得力に対して『誰が言ったのか』って重要視されるけど、案外そういう"格"に囚われた先入観は捨ててみると、面白いかも知れない。
"説いた言葉"とまた違った"叫び"の魅力ってやつかな。
今こうやって思い返すと「あの人は残念だった」って思い出せるってことは"ある種、どこか振り切ってた"って意味では素晴らしいのかも知れない。
誰かの記憶に残る素晴らしさが得られるなら僕もこの世の中における"残念戦争"に参戦したいね。
もちろん君の残念さも見抜いて愛すよ。
ツイキャス『実樹の独りでピロートーク』
⚡️3/24(金)25:00頃〜 ONAIR⚡️
実樹
@miki_mantendo
実樹の写メ日記
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第65号「MIKINOKIMI?」実樹