龍生の写メ日記

あの頃の僕は<br />

酷く大きなショックを受けていて、<br />

ソファに沈み、ウィスキーに沈んでいた。



夜が更けて、<br />

新しい酒を買いに行こうとした瞬間――<br />

部屋のドアが、なかった。



え？ と思った。<br />

リビングに閉じ込められた。



壁には、黒い文字で「RSB」と書かれていた。<br />

何かの暗号だろうか？<br />

考えても、まるでわからない。



時がどれほど流れたかもわからないまま、<br />

空腹が、心を削っていく。



そのときだった。<br />

暗闇のなかに、<br />

一瞬だけ浮かんだ大剣と少女の幻影。



もう一度、壁の「RSB」を見た。<br />

R＝River（川）<br />

S＝Sun（太陽）<br />

B＝Black（黒）



部屋の片隅に、古びたポットがある。<br />

僕はコーヒーを淹れた。<br />

濃く、苦く、真っ黒なそれを飲み干すと――



次の瞬間、<br />

視界がブラックに吸い込まれた。



気がつくと僕は、<br />

巨大な大剣の前に立っていた。<br />

隣には、言葉を話さない<br />

子どものような少女。



手を繋いでいる。<br />

それが、今この世界での唯一の真実。



目の前には、<br />

黒い波動を放つ魔女の影。



次の瞬間、<br />

暗黒の波動がこちらへ襲いかかる。



逃げ場はない、と思った瞬間――<br />

大剣が光り、黒を裂いた。



けれどその反動で、大剣は弾け飛ぶ。



「&hellip;&hellip;思い出した」<br />

僕はこの闇と戦っていた。<br />

彼女と一緒に。<br />

この無音の旅の中で。



大剣を拾い、前へ。<br />

波動を防ぎ、また弾かれる。



何度も何度も繰り返しながら、<br />

少しずつ、黒い魔女との距離が縮まっていく。



そして――<br />

彼女の身体が、光に包まれた。



その瞬間、<br />

羽を持つ妖精のような<br />

美しく凛とした大人の女性に変わっていた。



彼女は空を駆け、<br />

黒い魔女へと一直線に突っ込んでいく。



そしてその身体は、<br />

闇と光が交差するように<br />

ひとつに溶け合っていった。



「光と闇は、一緒に存在しないといけないの」<br />

彼女の声が、風のように響いた。



彼女と魔女が一体となって、<br />

僕の手にある大剣へ向かってくる。



触れた瞬間――<br />

世界が砕け、<br />

爆ぜた光の粒子が空へ舞い上がる。



気がつけば、<br />

そこには川が流れ、<br />

太陽が照らし、<br />

風が循環し、雨が降る。



この世界は生まれ変わっていた。



僕は、目を覚ます。



部屋にはドアが戻っていた。<br />

ウィスキーを、キッチンに流し捨てる。



そして、<br />

自転車に乗って、あのカフェへ向かう。



何も見えなかった暗闇の頃、<br />

ブラックコーヒーを片手に<br />

パソコンで&ldquo;自由の地図&rdquo;を朝から晩まで描いていたっけ。



ふと、自分の手を見ると――<br />

小さな、でも確かな少女の手の跡があった。



太陽が川を照らし、<br />

風が運んで雨となり、海へ還る。



そんな自由の流れを思い描きながら、<br />

僕はまた、今日もブラックコーヒーを飲んでいる。