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龍生の写メ日記

  • ミギとヒダリと、欲望のヒトリ
    龍生
    ミギとヒダリと、欲望のヒトリ

    左右対称が美しい、美しい心だけが正義──<br />

    これが、世の中の常識。



    僕の名前はミギ。弟のヒダリといつも一緒にいて、仲が良い。<br />

    僕らは両親のいない孤児。<br />

    世間では、大人の言うことを聞く&ldquo;素直ないい子&rdquo;で、<br />

    天使のような心を持っていると評判のふたり。



    この生き方は、窮屈だけど波風は立たない。<br />

    僕らが我慢すれば、何事も上手くいく。



    僕らは、表向きは優しい老夫婦の元に引き取られ、<br />

    静かな村で暮らしている。<br />

    ──けれど、本当の目的は別にあった。



    この村には「宝の鍵」にまつわる古い言い伝えがある。<br />

    その鍵は、老夫婦が持っているという噂だった。<br />

    宝を手に入れれば、お金も、時間も、自由も、すべてが手に入る。



    ミギの僕と、ヒダリの彼。<br />

    いつも言うことも、考えも、同じだった。



    でも、ある日ヒダリが言った。<br />

    「老夫婦を痛めつければ、鍵のありかを喋るんじゃないか?」



    僕は反射的に言い返した。<br />

    「なに言ってるんだ。平和に手に入れなきゃダメだろ」



    ──この日から、ふたりの意見は食い違い、<br />

    天使と悪魔のように、喧嘩が増えていった。<br />

    ミギの僕は天使の心を、<br />

    ヒダリの彼は邪悪な心を持っていた。<br />

    その確執は、日を追うごとに深くなっていった。



    そんなある日、老夫婦のもとに新たな虎児がやってくる。<br />

    名前は、ダン。



    物静かで美しい彼は、<br />

    どこか僕らのことを見透かしているようだった。



    数日後、彼は言った。<br />

    「鍵は手に入れた。深夜に地下室に来い」



    驚いた。<br />

    彼も、鍵の存在を知っていたのか──。



    そして深夜。<br />

    ヒダリとともに地下室へ向かった。



    そこにはダンが立っていた。<br />

    「よく一人で来たね、ミギダリ」



    ──その呼び方に、違和感を覚えた。<br />

    なぜ&ldquo;ミギとヒダリ&rdquo;を繋げて呼ぶ?<br />

    ふたりなのに、&ldquo;一人&rdquo;で来たとは?



    隣を見る。<br />

    ──誰もいなかった。



    ダンは微笑んで言った。<br />

    「気づいたかい? 君は、ミギとヒダリでヒトリなんだ」



    そう。僕はひとりだった。<br />

    天使と悪魔、善と悪、愛と欲望──<br />

    そのすべてを心に持つ、&ldquo;僕&rdquo;だった。



    ダンが言う。<br />

    「欲望のままに、生きていい。<br />

    天使と邪悪は、いつも隣り合わせだ」



    その夜、僕はすべてを受け入れた。<br />

    もう、宝の鍵など必要ない。<br />

    自分を抱きしめて、前に進めばいい。



    いま、僕は──<br />

    宇宙を飛び回る汽車に乗って、<br />

    自由という銀河を、旅している。



    ミギとヒダリ、ふたりの声を抱いたままの僕で。