かつてアメリカの文豪ヘミングウェイは、<br />
「パンドラの箱の奥には莫大な宝が眠っている」と語った。<br />
だがその箱を開けるには──<br />
あらゆる恐怖と、孤独と、絶望と、<br />
そして何より「現実」と向き合わねばならない。
僕はその箱に、手を伸ばせずにいた。<br />
ただ、誰かの作った地図の上を<br />
正確に歩くことだけに集中していた。
現場の作業員を、いかに長く働かせられるか。<br />
労基に触れないギリギリのラインを探し、<br />
関数を組み、数字を整え、<br />
フードコートの片隅で夜を明かしながら、<br />
“昇進のための資料”を作り続けていた。
──それが僕にとっての「成功への鍵」だった。<br />
でも、あの時はまだ知らなかった。<br />
それが地獄の扉を開く呪われた鍵になることを。
ある日、上司に呼び出された。<br />
「君の肩書きは、今日で解除だ」<br />
静かに、無感情に告げられたその言葉は、<br />
まるで断頭台の斧のように僕を叩き落とした。
──そう。<br />
僕は、自分が作った資料で、<br />
自分を処刑したのだった。
その瞬間、<br />
彼は“上司”ではなくなった。<br />
欲望を食い散らかす、“仮面のハイエナ”になった。
僕は知った。<br />
この世界には、<br />
“自由のふりをした牢獄”がある。<br />
そこから抜け出すには、<br />
ヘミングウェイの言った“宝の地図”を手に入れなければならない。
そして僕は、ついに決意する。<br />
あのパンドラの箱を開けるときが来たのだ──。
警備室から盗んだ黄金の鍵と、<br />
閃光手榴弾、そしてマグナムを手に、<br />
僕は最上階の宝物庫へと走った。<br />
だがそこに立ちふさがっていたのは、<br />
あの仮面のハイエナだった。<br />
マシンガンを構え、僕を見下ろすその顔に、<br />
もう“人間”の気配はなかった。
僕は手を上げるふりをして、<br />
ポケットの中の閃光手榴弾を転がす。<br />
閃光が弾けた瞬間、<br />
僕はマグナムを構え、<br />
ハイエナの眉間を撃ち抜いた。
「あの世で自由の女神にキスでもしてな」
そう言い残し、僕は箱を奪った。<br />
パンドラの箱の蓋が開くと、<br />
中からはあらゆる恐怖と呪いが飛び出してきた。<br />
でもその底には──<br />
“希望の光”が、確かに残っていた。
あれから僕は、<br />
その希望の光を帆に受けて、<br />
広大な海に旅立った。
地図を捨て、自分だけの地図を描きながら──<br />
自由を求める仲間たちと出会い、<br />
ときに孤独と闘い、<br />
ときに笑いながら。
そして今日もまた、<br />
空に掲げた希望のコンパスを頼りに、<br />
まだ見ぬ世界へと、航路を引いている。
自由の物語は──まだ、旅の途中だ。
龍生の写メ日記
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ヘミングウェイと黄金の鍵と、自由の女神龍生