僕は子どもの頃から、<br />
なんとなく自分が“普通じゃない”ことに気づいていた。
興味のあることには、何時間でも没頭できる。<br />
でも、興味がなければ、まるで動けない。
高校1年ではビリだった僕が、<br />
翌年には学年トップ。<br />
オール100点の答案用紙を前に、<br />
なぜか「これが普通」だと思っていた。
でも、周りには理解されなかった。<br />
学校でも、会社でも──<br />
僕はずっと、どこにも居場所がなかった。
そんな僕にも、ひとつだけ自信があった。
それは、「根拠のない自信」だ。<br />
感受性の強さと、理由なき確信。<br />
たとえ誰かに否定されても、<br />
どこかで信じていた。<br />
“僕は僕でいいんだ”って。
ある日、投稿した詩が少しバズった。<br />
感じたまま書いただけなのに、<br />
「言葉が沁みた」<br />
「涙が出た」<br />
そう言ってくれる人たちが現れた。
気づいた。
僕は「言葉にできない想い」を、<br />
“代わりに信じて、言葉にしてあげる”存在なんだ。
──人間とバンパイアのあいだに生まれた存在。<br />
影を背負いながらも、人を守るために剣を振るう。<br />
僕は、“ダンピール”だったんだ。
ある日、僕のもとに依頼が届く。<br />
「娘がバンパイアにさらわれた──助けてください」
相手は“貴族”と呼ばれる、強大な力を持つバンパイア。<br />
誇り高い存在が、なぜ人さらいを?<br />
疑問を抱えながら、僕は彼の前に立つ。
貴族の瞳に宿る、かすかな痛みに気づく。<br />
──愛してしまったんだ。<br />
彼は、その娘を。
だが、愛し方を知らなかった。<br />
信じることが怖かった。<br />
だから彼は、娘を閉じ込めた。<br />
その手で、彼女の世界を奪った。
「古城に来い」<br />
そう言い残して、貴族は娘と共に飛び去った。
古城に着くと、<br />
棺桶が揺れ、影のような霧が立ち昇る。<br />
カーミラ──幻影で心を操る、魔性のバンパイアが現れる。
信じることを恐れた貴族は、<br />
カーミラの幻影に囚われ、<br />
自分も、愛する人も縛りつけていた。
僕にカーミラが襲いかかる。<br />
だが僕は、信じていた。<br />
言葉の力も、自分の存在も。<br />
だから幻影は届かない。
──その一太刀で、すべてを断ち切った。
貴族はゆっくりと跪き、<br />
凍えた娘の手を震える指で包んだ。<br />
「もう隠れなくていい」<br />
小さな声に、何年分もの涙が滲んだ。
言葉を信じていなかった僕が、<br />
誰かの「生きる力」になれると知った。<br />
それが、僕自身を救うことにもなった。
そして今日も、<br />
言葉の届かぬ闇にひとり佇む誰かに、<br />
胸の奥で灯しつづけた光を、<br />
そっと──剣のように差し出す。<br />
「信じることは、もう一度生きることだから」
──僕は、ダンピール。<br />
人でもバンパイアでもない、<br />
けれど確かに、“言葉の剣”を握っている。
今も、誰かのために。<br />
そして、自分のために。
龍生の写メ日記
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貴族と幻影と、ダンピール龍生