僕は自由になるために<br />
深夜バスに乗り、東京を目指していた。<br />
新しい明日を探しにいく──そんな旅だった。
心の中は、<br />
お金、自由、成功……<br />
あらゆる欲望でいっぱいで、<br />
“空白”の入り込む隙もなかった。
その夜もまた、<br />
深夜バスの途中、サービスエリアで休憩をとる。<br />
人気のないカフェでウィンナーコーヒーを注文した。<br />
その甘くてほっとする味に、少しだけ心がゆるむ。
ふと顔を上げると、<br />
黒い服を着た無表情の少女が目の前に立っていた。
「ゲームをやめないで」
──そうつぶやいたかと思うと、少女はすぐに姿を消した。<br />
夢でも見たのかと思い、スマホを取り出し<br />
いつもの無料ゲームを開こうとするが、ログインできない。
早朝。東京に着く。<br />
だが、空気が異様に重い。<br />
巨大ビルの外壁モニターに映る緊急速報。
「人工衛星がハッキングされ、<br />
宇宙から強力なレーザーが発射されました。<br />
都市が一瞬で壊滅状態に──」
その瞬間、遠くで閃光が爆ぜ、轟音が響く。<br />
キノコ雲が空を覆い、街が煙になった。<br />
人々の叫び声とサイレン。<br />
映像にノイズが走り、画面いっぱいにあの少女が現れる。
「この世界を、焼き尽くす」
僕のスマホが震える。<br />
見ると、さっきログインできなかったゲームが勝手に起動していた。<br />
僕の頭に、なぜか**“kuuhaku”**という言葉が浮かぶ。
──kuuhaku<br />
僕はそれを入力する。<br />
すると、画面には「No game」とだけ表示される。
僕は静かに目を閉じ、そして開いた。<br />
そして──No lifeと入力した。
少女の映像が、滝のように端から崩れていく。<br />
最後に一瞬だけ、こう表示される。
「私を、忘れないで」
あの事件は、それを境に起きなくなった。
東京に戻った僕は、<br />
小さなカフェに入った。<br />
マスターと従業員しかいない、静かでお洒落な空間。
席についてメニューを見ていると、<br />
まだ注文していないのに、<br />
少し懐かしさを帯びた美しい女性の手が、<br />
ウィンナーコーヒーをそっとテーブルに置いた。
顔を上げると、そこには誰もいない。
マスターに尋ねる。<br />
「さっきの女性、従業員の方ですか?」
彼は首をかしげて言った。<br />
「うちにはそんな娘、いませんよ」
僕はコーヒーをひと口すすった。<br />
甘くて、少しだけ苦い。
そして、立ち上がる。<br />
まっすぐに歩き出す。
──この世界で、もう一度。<br />
自由というゲームを、プレイするために。
龍生の写メ日記
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空白と少女と、ウィンナーコーヒー龍生