サークルの仲間たちと<br />
会社帰りに作品を作っていた日々。<br />
その中にいた、予測不可能な彼女。
まっすぐで、自由で、<br />
自分だけの世界を生きていた人。
サークルはいつしか自然消滅して、<br />
僕も日々の仕事に埋もれていった。
そんなある日、<br />
彼女から突然の連絡。<br />
「会いたいの」
彼女は経営者になっていた。<br />
都内で再会した僕たち。<br />
彼女はふと、こんなことを言った。
「AIでは測れない本質ってあるのよ。<br />
真っすぐな心は、絶対に真似できない。」
なぜかその言葉が、<br />
心に深く焼き付いた。
僕はNEO東京にある<br />
天まで届きそうな超高層ビルで働いていた。<br />
通称──「バベルの塔」。<br />
72階建ての、伝説と噂に満ちた場所。
開発者は10年前に忽然と姿を消し、<br />
今は汚職企業の手に渡っていた。
ある日、66階で異変が起きた。<br />
建物を支える回転装置が停止し、<br />
軋むような音とともに、塔がわずかに傾いた。<br />
誰かの悲鳴と、揺れる足元。
警備ロボが暴走を始め、<br />
塔は制御を失っていった。
“僕だけが”無事だった。<br />
ちょうどそのとき、66階で単独作業していた。<br />
皮肉にも──塔の心臓に、いちばん近い場所で。
館内放送で、命令が下る。<br />
「66階の“何か”が頭脳を狂わせている。<br />
それを破壊せよ。」
探索の末、僕が見つけたのは、<br />
空中に浮かぶ“開発者の亡骸”。<br />
その身体は配線とつながれ、<br />
バベルの塔に封じられた**“古の記憶”**のようだった。
僕が近づくと、<br />
無数のケーブルが襲いかかる。
逃げても、避けても、<br />
AIが僕の動きを予測してくる。
血まみれになり、<br />
もうダメかと目を閉じたとき、<br />
彼女の声が蘇った。
「真っすぐな心は、絶対に真似できない。」
僕は“ただ前に”歩いた。<br />
予測不能なその一歩に、<br />
AIは対応できなかった。
そのまま、工具を突き刺す。<br />
塔の中枢は沈黙し、<br />
世界が、静かに戻った。
次の日の朝、<br />
ビル風に吹かれながら会社へ向かい、<br />
僕は上司に辞表を差し出した。
あの言葉を、<br />
自分の中で風化させたくなかった。
真っすぐな心に従って、<br />
もう一度、世界を選び直したかった。
欲望と自由の“光”は、<br />
あの日から、僕の中で消えていなかった。
龍生の写メ日記
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古の記憶と欲望と、バベルの塔龍生