誰からも高く評価されなかった僕は、<br />
「いつか認められる人間になれる」と信じて、<br />
求めていない努力を、<br />
擦り切れた時間に押し込んでいた。
努力だけがすべてだと信じていたけど、<br />
そこにあったのは、<br />
擦り切れた精神と、<br />
力の入らない身体だけだった。
そんなある日、<br />
空が光って、<br />
全人類が石になった。
気づいたとき、僕は石化していなかった。<br />
いや、他にもいるかもしれない。<br />
誰かを探して、歩いた。
やがて出会ったのは──<br />
自由そのものを絵に描いたような、<br />
ひとりの女性だった。
さらに歩いていくと、<br />
“石にならなかった人たち”の集落があった。<br />
その人たちは、<br />
「当たり前に逆らって生きてきた」<br />
そんな人たちだった。
彼らと共に過ごす日々は、<br />
「欲望のために努力する」世界。<br />
評価のためじゃない。<br />
やりたいことに正直で、<br />
そのためには全力になれる、<br />
まるで逆さまに映る自由の国だった。
彼女との時間が、<br />
未来への不安さえ、<br />
愛おしいものに変えてくれた。
でもある日──<br />
空から声がした。
「carry fea(キャリー フィア)…1 second」
蛇の形をした石が、<br />
空に浮かび、<br />
仲間の一人が石化した。
立っていたのは、<br />
“支配”の権化のような男だった。
「個性なんていらない。<br />
社会の歯車だけが生き残ればいい。」
蛇の石は、<br />
“恐怖”を抱えた人に向かって放たれる。<br />
数字とともに光り、<br />
その場の人間を石に変える呪具。
次は僕だった。<br />
彼女の声が届く。
「…恐怖に勝って。」
目の前で光った石。<br />
でも僕は石化しなかった。
支配者が怯んだ。
僕はその石を手に取り、<br />
同じように呟いた。
「carry fea…1 second」
支配者は、石になった。
気づけば──<br />
電車の中。<br />
いつもの会社に向かう朝だった。
僕は途中下車して、<br />
会社に「体調不良で休みます」と電話した。
そして逆方向の電車に乗った。<br />
海を目指して。
車窓から見えた空は、<br />
“欲望のために努力する”<br />
あの世界と同じ色だった。
恐れに覆われた石の中で<br />
僕らはずっと眠っていたのかもしれない。<br />
でももう、<br />
欲望が光を放った——<br />
あの青空の下で。
龍生の写メ日記
-
石と光と、欲望の行方龍生