風に乗って現れたのは、<br />
まるで絵本の中から抜け出してきた女の子だった。
3歳児のような笑顔と、<br />
透き通った羽を背負った、<br />
だけど――飛べないフェアリー。
彼女がいたのは、<br />
楽園のようなストーリーを描いた本の、その外側。<br />
誰かが描いた、一本だけのロープの上を、<br />
ひとりで渡る毎日。
落ちたら終わり。<br />
だけど、進む先も見えない。<br />
それでも歩く。<br />
それしか選べなかったから。
そんな彼女の前に、<br />
冴えないピエロが現れた。<br />
夢しか描けない道化の男。
彼は言った。<br />
「ねえ、君が渡ってきたロープ、<br />
少し狭すぎないか?」
彼はもう一本のロープを張った。<br />
それは、夢でできていた。<br />
不安定かもしれないけど、<br />
渡るのは、なぜか怖くなかった。
彼女はゆっくりと目を開いた。<br />
羽が揺れた。<br />
けれどまだ飛べない。
それでも、<br />
ピエロの描いた夢の上なら、歩いてみたいと思えた。
彼女の目から、呪いが静かに溶けていく。<br />
ずっと飲み込んでいた言葉が、少しずつこぼれ出す。
「今夜は……夢に、辿り着きたい」
その声を聞いた瞬間、<br />
彼は彼女を抱きしめた。
その肩越しに見えた羽は、<br />
透明に揺れて、<br />
少しだけ光を帯びていた。
絵空事みたいな笑顔だった。<br />
でも、その笑顔はたしかに今、目の前にあった。
きっと今夜、<br />
彼女は辿り着ける。<br />
“誰かの物語”ではなく、<br />
“自分の楽園”へ。
龍生の写メ日記
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夢のロープとピエロと、飛べないフェアリー龍生