僕はいくつものビルを<br />
“開拓”する仕事をしていた。
休みはなかった。<br />
重力が強く設定された星の上を歩くみたいに<br />
身体が重くて、<br />
その日は特に、何もかもが沈んでいた。
ビルの地下。<br />
誰もいない場所で座り込んでいたら、<br />
マンホールから音がした。
「助けて」
そう聞こえた気がした。
異世界とつながってるんじゃないか。<br />
そんな空想が、ふっと浮かぶ。
でも現実は、<br />
これから“会議”という名の戦場が待っていた。
崖を転がるように<br />
僕はそこへ向かった。
会議室では<br />
理不尽な攻撃が飛んでくる。
静かに思った。
ちゃんと従っているのに、<br />
真面目にやっているのに、<br />
どうしてこんなにも、心は沈んでいくんだろう。
そのときだった。<br />
また、マンホールから声がする。
「飛び立つには、反発することも必要よ」
はっとした。
僕はずっと、<br />
合わせることだけを選んでいた。<br />
空気に、常識に、会社に。
心の奥に埋め込まれた<br />
ふたつに組み合わさった重力鉱石の接合部を<br />
そっと、自分の方向にずらしてみた。
その瞬間、身体の中で何かが静かに浮いた。
会議に戻る。<br />
いつもなら、顧客に合わせる。<br />
でもその日、<br />
僕は静かに、反発した。
早打ちのレーザー銃のように<br />
反応が止まったあの空気を、<br />
今でも覚えている。
そのあと、<br />
気がつけば、知らない街にいた。
マンホールからの声は、もう聞こえない。
でも今、僕は<br />
宇宙船“インディペンデンス”に乗って、<br />
帆で風を受けながら、<br />
果てしない空を自由に飛び回っている。
龍生の写メ日記
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重力鉱石とマンホールと、宇宙船インディペンデンス龍生