何もない日々だった。<br />
ただ、何かを変えたくて<br />
朝が来れば 会社へ<br />
夜になれば コンクリートの箱の中<br />
意味もなく身体を追い込んで<br />
傷つけることで 自分の存在を感じていた。
誰にも頼らず<br />
誰にも頼られず<br />
進んでも進んでも 心は乾いていくばかりだった。
それでもやめなかった。<br />
季節が変わっても 変わらずに通い続けた。<br />
そんなある日——<br />
彼女は現れた。
自由をそのまま切り取ったような人。<br />
やりたいことはやる<br />
やりたくないことはやらない<br />
笑って、風のように僕の世界に入ってきた。
その笑顔は、咲き始めた花のように<br />
心の奥をふいに照らした。
花を撮るのが好きで、<br />
その瞬間を切り取ることが、彼女の自由のかたちだった。<br />
写真展に誘われた日、僕はまだ、そこへ行く勇気がなかった。
羨ましかった。<br />
あの頃の僕は<br />
自由なんて 触れたこともなかったから。
それでも彼女は、<br />
静かな瞳の奥に、誰も知らないほどの知性と責任を抱えていた。
驚きとともに、僕は自分を見つめなおした。
しばらくして<br />
彼女は来なくなった。
僕は決めた。<br />
ここを出よう、と。<br />
不自由を脱いで<br />
自由へ向かって歩き出すと決めた。
久しぶりに、彼女に連絡をした。<br />
変わらない笑顔。<br />
でも、彼女はもうすぐ結婚すると言った。<br />
胸の奥に 小さな波紋が広がった。
帰り際、ふいに彼女が言った。<br />
「あのとき、ほんとは好きだった」<br />
そして<br />
キスをした。
それで、すべてだった。<br />
終電を逃して、僕は夜の街をさまよった。<br />
偶然見つけた、小さなバー。<br />
やさしい灯りと 静かな音楽に包まれて<br />
朝まで、ただ心をあたためていた。
バッグの中に<br />
彼女と一緒に写っていた撮りかけの写真があった。<br />
ピントが甘くて<br />
でも、笑顔だけがやけに鮮明だった。
何もないはずの日々から<br />
すこしずつ、変化が始まっていた。
人は 出会い<br />
別れ<br />
失い<br />
また手に入れ
そして僕は<br />
いま、ここにいる。
龍生の写メ日記
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花とコンクリートと、撮りかけの写真龍生