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龍生の写メ日記

  • 花とコンクリートと、撮りかけの写真
    龍生
    花とコンクリートと、撮りかけの写真

    何もない日々だった。<br />

    ただ、何かを変えたくて<br />

    朝が来れば 会社へ<br />

    夜になれば コンクリートの箱の中<br />

    意味もなく身体を追い込んで<br />

    傷つけることで 自分の存在を感じていた。



    誰にも頼らず<br />

    誰にも頼られず<br />

    進んでも進んでも 心は乾いていくばかりだった。



    それでもやめなかった。<br />

    季節が変わっても 変わらずに通い続けた。<br />

    そんなある日&mdash;&mdash;<br />

    彼女は現れた。



    自由をそのまま切り取ったような人。<br />

    やりたいことはやる<br />

    やりたくないことはやらない<br />

    笑って、風のように僕の世界に入ってきた。



    その笑顔は、咲き始めた花のように<br />

    心の奥をふいに照らした。



    花を撮るのが好きで、<br />

    その瞬間を切り取ることが、彼女の自由のかたちだった。<br />

    写真展に誘われた日、僕はまだ、そこへ行く勇気がなかった。



    羨ましかった。<br />

    あの頃の僕は<br />

    自由なんて 触れたこともなかったから。



    それでも彼女は、<br />

    静かな瞳の奥に、誰も知らないほどの知性と責任を抱えていた。



    驚きとともに、僕は自分を見つめなおした。



    しばらくして<br />

    彼女は来なくなった。



    僕は決めた。<br />

    ここを出よう、と。<br />

    不自由を脱いで<br />

    自由へ向かって歩き出すと決めた。



    久しぶりに、彼女に連絡をした。<br />

    変わらない笑顔。<br />

    でも、彼女はもうすぐ結婚すると言った。<br />

    胸の奥に 小さな波紋が広がった。



    帰り際、ふいに彼女が言った。<br />

    「あのとき、ほんとは好きだった」<br />

    そして<br />

    キスをした。



    それで、すべてだった。<br />

    終電を逃して、僕は夜の街をさまよった。<br />

    偶然見つけた、小さなバー。<br />

    やさしい灯りと 静かな音楽に包まれて<br />

    朝まで、ただ心をあたためていた。



    バッグの中に<br />

    彼女と一緒に写っていた撮りかけの写真があった。<br />

    ピントが甘くて<br />

    でも、笑顔だけがやけに鮮明だった。



    何もないはずの日々から<br />

    すこしずつ、変化が始まっていた。



    人は 出会い<br />

    別れ<br />

    失い<br />

    また手に入れ



    そして僕は<br />

    いま、ここにいる。