わかったフリで笑顔を貼りつけ、<br />
誰かの期待に応えるように、<br />
形だけの「大丈夫」を抱えて旅に出た。
遠くの街、<br />
乾いたバスのシートで揺られながら、<br />
心はどこにも向かっていなかった。
バスを降りると、<br />
じわりと噴き出した汗が背中を伝った。<br />
知らないビル、見知らぬ空。<br />
光の色も、空気の味も、<br />
どこか全部が“自分じゃない”ように感じた。
ホテルの小さな部屋、<br />
鏡に映ったのは、<br />
なにかを置いてきた顔だった。<br />
——心はまるで、感情を凍らせた北極のようだった。
あの娘の笑顔が、遠い光になって揺れていた。<br />
夢の国で交わした言葉——<br />
「きっと帰る」<br />
あれは誰よりも、僕自身への宣言だったのかもしれない。
小さな頃に見たアニメのヒーローは、<br />
鏡の中で孤独に戦っていた。<br />
倒れても、痛みを抱えても、<br />
そのたびに、光のほうへ立ち上がっていた。
眠りの中、<br />
僕は過去の自分と出会った。<br />
震える手に、“自由という感情”を渡した。
「これを忘れないで」<br />
「誰のものでもない、自分のための時間だよ」
目が覚めたとき、<br />
タイムパラドックスのように、<br />
もう一人の自分が静かに消えていた。
窓の外、まだ目覚めぬ街。<br />
高層ビルの硝子に、<br />
あの娘の笑顔がふと映った気がした。
あのとき、遠くの場所に置いてきた感情は<br />
今、ちゃんと手の中にある。<br />
自由という名の道を、<br />
もう、僕は迷わず歩いていける。
龍生の写メ日記
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鏡と北極と、タイムパラドックス龍生