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龍生の写メ日記

  • 帽子と茶色と、苦い砂糖
    龍生
    帽子と茶色と、苦い砂糖

    あの頃、<br />

    仲間たちと笑いあった日々の隅で、<br />

    いつも少しだけ、距離を置いていた彼女。<br />

    <br />

    帽子がよく似合って、<br />

    小柄な身体に、<br />

    透けるような茶色の瞳。<br />

    <br />

    おとなしくて、<br />

    けれどその瞳の奥には、<br />

    誰も読めない深さがあった。<br />

    <br />

    気づけば会わなくなっていた。<br />

    同じ場所で、違う方向を向くようになっていたから。<br />

    <br />

    それでも──<br />

    季節が何度もめぐったある日、<br />

    「久しぶりに遊ばない?」と、あの子から届いた一通のメッセージ。<br />

    <br />

    鼓動が跳ねた。<br />

    予想もしてなかった名前が、画面に光っていた。<br />

    <br />

    会ってみると、<br />

    彼女は変わらず彼女のままで、<br />

    でも、大人びた雰囲気と洗練された仕草が<br />

    無意識に僕の目を惹きつけていた。<br />

    <br />

    視線の隙間に、ふと香る色気。<br />

    言葉の合間に滲む柔らかさ。<br />

    指先の動きが、グラスの縁をなぞるたび、<br />

    どこかくすぐられるような感覚があった。<br />

    <br />

    洒落た街のカフェで話すうち、<br />

    彼女が今、経営者としていくつもの事業を手がけていることを知った。<br />

    <br />

    僕はまだ、会社という檻の中。<br />

    その差は、想像以上に遠かった。<br />

    <br />

    でも、不思議と悔しさはなかった。<br />

    <br />

    夜になって入ったレストランで、<br />

    彼女はワインを、僕は少し甘めのカクテルを頼んだ。<br />

    <br />

    グラス越しに見つめられたとき、<br />

    ふと、肌の内側が熱を帯びた気がした。<br />

    <br />

    そのお酒は、<br />

    子どもの頃にはわからなかった自由の味がした。<br />

    ほんのりと、苦くて甘い、<br />

    大人の夢みたいな味。<br />

    <br />

    彼女は、軽やかに笑っていた。<br />

    決して誰かと比べず、<br />

    自分の&ldquo;好き&rdquo;を信じて選び続けた人の笑顔だった。<br />

    <br />

    あの夜──<br />

    僕の心に、<br />

    誰にも気づかれず灯った火がある。<br />

    <br />

    「自分のまま、生きていいんだ」<br />

    そう思わせてくれた彼女は、<br />

    もしかしたら、<br />

    夜に舞い降りた、帽子をかぶった自由の精だったのかもしれない。<br />

    <br />

    ほんのり甘く、でも確かに苦い&mdash;&mdash;<br />

    そんな砂糖のような記憶を、僕に残して。