龍生の写メ日記

帰り道ばかり見つめていた頃、<br />

ひとつのカフェで、彼女に出会った。<br />

<br />

小柄で、笑顔の似合う人。<br />

指先から伝わる空気に、<br />

どこか芯の強さが潜んでいた。<br />

<br />

軽やかに場を歩き、<br />

言葉の奥に、夢と計画の匂いがした。<br />

その奥で、まだ見ぬ欲望が、<br />

静かに呼吸しているようにも思えた。<br />

<br />

しばらくして、<br />

大きなホールのステージで、<br />

彼女が踊り、歌う姿を見かけた。<br />

<br />

揺れる髪、しなやかな動き、<br />

まばゆい光の中で<br />

身体ごと、何かを解き放つようだった。<br />

あの夜の空気は、<br />

少し甘く、熱を帯びていた。<br />

<br />

その後、また静かな場所で、<br />

ミルフィーユをひと口頬ばりながら、<br />

幾重にも重ねてきた自分の層を、<br />

そっと見つめ直しているようだった。<br />

<br />

眠らせていた声たちが、<br />

少しずつ目を覚ましはじめていた。<br />

<br />

季節が巡り、<br />

ふと目にした動画の中に、彼女がいた。<br />

<br />

楽しそうだった。<br />

迷いのない瞳で、まっすぐ未来を見ていた。<br />

<br />

あの日見つけた、自分だけの精霊。<br />

その声に、ようやく耳を澄ませて<br />

自由に羽ばたいたのだろう。<br />

<br />

自分に還ること。<br />

それは、いちばん遠くて、いちばんやさしい旅。<br />

<br />

今日もどこかで、<br />

誰かが小さな羽根を広げている。