出会いは、まだ自分を模索していた季節だった。<br />
<br />
彼女は軽やかで、真っすぐで、<br />
それでいてどこか、<br />
触れたらほどけてしまいそうな儚さをまとっていた。<br />
<br />
年齢も、立場も、意味を持たなくなるほど、<br />
“自由でありたい”という感覚だけが<br />
静かに共鳴していた。<br />
<br />
ふたりで交わした食事の時間は、<br />
目的ではなく、余白だった。<br />
グラスを傾けるたび、<br />
彼女の喉が、かすかに揺れていたのを覚えている。<br />
その仕草ひとつで、空気が甘くなる夜もあった。<br />
<br />
やがて彼女は、<br />
眩しいほどのスピードで駆け抜け、<br />
その光の先に、名前のつかない揺らぎを抱えはじめた。<br />
<br />
理由のわからない揺らぎが、<br />
彼女を遠くへ運んだ。<br />
それはきっと、心の奥に芽生えた“シンドローム”。<br />
説明も整理もできない、<br />
でも確かに存在する、静かな発作のようなものだった。<br />
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香りだけを残して、<br />
彼女は、風のように去っていった。<br />
<br />
季節がめぐり、忘れかけた頃――<br />
ふいに届いた「誕生日おめでとう」の短い言葉。<br />
まるで風が、過去と今をつなぎに来たようだった。<br />
<br />
元気でやっているらしい。<br />
きっと今も、自分だけの熱を纏いながら、生きている。<br />
<br />
もう交わることのないふたつの道。<br />
でもそれぞれが、それぞれの光を抱いて、<br />
ただ、進んでいる。<br />
<br />
名前のない衝動が、<br />
心にそっと火を灯すとき――<br />
人は風になる。
龍生の写メ日記
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春と風と、シンドローム龍生